政策金利の着地点を5.25~5.5%と予想
FRB(米連邦準備理事会)は利上げ積極姿勢をより強化
FRB(米連邦準備理事会)は9月20-21日にFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催し、政策金利であるフェデラルファンド金利の誘導目標を0.75%ポイント引き上げ、3.0-3.25%とすることを決定しました。利上げ幅は概ね事前の市場予想通りであり、市場にとってはサプライズではなかったと見られます。
多くの市場参加者にとってサプライズだったのは、FOMCメンバーの政策金利見通し(中央値)が事前の予想に比べてよりタカ派的であった点でしょう。FOMCの政策金利見通しは2022年末が4.375%(誘導目標4.25-4.5%)、2023年末が4.625%(同4.5-4.75%)へ上方修正されました。この見通しを踏まえると、次回11月会合で0.75%ポイント、12月会合で0.5%ポイント、2023年2月会合で0.25%ポイントの利上げを実施し、その後は政策金利を据え置く展開がメインシナリオとなりそうです。また、2024年末は3.875%(同3.75-4.0%)、2025年末は2.875%(2.75-3.0%)とそれぞれ0.75%ポイント、1.0%ポイントの利下げが予想されています。
FOMC見通しはより強力な利上げの必要性を示唆
注目したいのは、政策金利見通しを大幅に上方修正した上で、FRBが米国経済の全体像をどのように捉えているかという点です。6月時点の見通しを見ると、実質GDP成長率は2.0%程度と目される潜在成長率近辺で推移し、失業率も長期均衡水準前後での推移を予想しながら、インフレは2.0%目標に向かって順調に低下すると予想していました。現在の米国におけるインフレが資源価格や食料品価格の上昇といった外生的要因だけではなく、労働需給の逼迫を背景とした賃金インフレなど、内生的要因によって押し上げられていることを踏まえると、非常に楽観的な見通しであったと指摘することができます。その後、FRBは従来の想定を大幅に上回る利上げを余儀なくされました。
今回の見通しを確認すると、政策金利見通しを大幅に上方修正した割には成長率見通しの下方修正は小幅であり、FOMCメンバーが米国経済はソフトランディング(軟着陸)が可能だと見ている様子がうかがえます。一方で、失業率は長期均衡水準を上回る見通しです。その上でなおインフレ見通しが上方修正されたことを踏まえると、インフレを早期に鎮静化させるためにはより強力な利上げを講じ、労働需給の逼迫を緩和する必要があると想定している可能性もありそうです。このことは、経済見通しに対するリスクは依然として下振れ方向にあることを意味しています。
FRBタカ派化継続の背景
FRBがタカ派姿勢を強化してる背景として、第1に想定したほどには金融環境が引き締まっていないことが挙げられます。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、金融環境を確認する上で、シカゴ連銀金融環境指数に注目していると述べています。同指数は105種類の金融指標を合成し、金融環境が過去の平均値からどの程度引き締まって(緩和されて)いるかを見たものです。
近年の状況と比較すれば金融環境指数は既に高水準にあると見ることも可能ですが、消費者物価の前年比上昇率で見たインフレ率が、1981年以来の高水準にあることを踏まえると、金融環境が十分引き締まっているとは言い難い状況です。
第2に労働需給の逼迫が挙げられます。米国では求人数が高止まりする一方で、労働参加率は改善せず、労働需給の逼迫度合いが高まっています。加えて、労働需給のミスマッチ等を主因とした構造的失業率が高止まりしていることから、失業率はコロナ前と同程度の水準ながら、循環的失業率で見た労働需給はコロナ前よりも逼迫しています。
労働需給逼迫によるインフレ圧力を緩和させるためには、労働参加率の改善やミスマッチの解消を通じて供給を増やすか、生産性を改善させるか、需要を抑制する必要があります。このうち金融政策が効果を発揮し得るのは、需要の抑制だけです。循環的失業率の点からは、最大で失業率を2.0%ポイント程度押し上げるだけの引き締めが必要であると言えます。
政策金利の到達点見通しを上方修正
9月FOMCの結果を踏まえて、野村證券では米国の金融政策見通しを修正しました。年内は11月、12月ともに0.75%ポイントの利上げを実施、2023年は2月に0.5%ポイント、3月に0.25%ポイントの利上げを実施し、政策金利を5.25~5.5%へ引き上げると予想します。利下げ開始は23年9月以降との見方に変更はありませんが、24年末まで計11回の会合のうち、前半の5回の利下げ幅は0.25%ポイント、後半6回は0.5%ポイントのペースで利下げを実施すると予想しています。
(投資情報部 尾畑 秀一)