先進諸国の経済政策において、文化・芸術分野を「クリエイティブ・エコノミー」「クリエイティブ産業」などととらえ、同分野の振興を図る動きが拡がっている。雇用創出などの経済効果だけでなく、コミュニティや人材教育などに対するインパクトの重要性が高まっていることがその理由と考えられる。 

 クリエイティブ・エコノミーへの資金提供において、ファンドを通じたインパクト投資の事例がみられるようになってきた。公的資金(助成金/補助金)や寄付以外の資金を原資としている点、アーティストや関連団体に無担保で返済条件が柔軟なローンを提供する点が特長である。

 ファンドからのクリエイティブ・エコノミーへのローン提供には、支援を受ける団体が「組織の持続可能性とスケールアップ」を強く志向するようになるという効果が期待される。つまり、(少なくともローンの満期まで)持続的に収入を出し続ける事業やプロジェクトでなければ、支援が提供されないため、通常返済の必要がない公的資金や寄付に頼るよりも、事業を持続し拡大するインセンティブが生まれる。結果として、アーティストを含むクリエイティブ・エコノミーに携わる人々に有益な雇用、生活手段を提供することになる。一方、ファンドを運営・管理するには、金融機関等のノウハウが欠かせない。加えて、事業・プロジェクトを審査する「目利き」あるいは事業の持続可能性を高める「コーチ」のような役割も非常に重要となる。

 英国・米国のインパクト・ファンドの事例においては、事業収益だけでなく社会的および芸術的インパクトを計測する評価体系や、信用補完によって投資家のリスクを調整する仕組みなどが試みられている。また、ジェンダーギャップ改善への取り組みの一つである「ジェンダー・レンズ投資」を参考に、新たな評価基準として「クリエイティビティ・レンズ」という概念を提唱し、投資家への認知を促進しようとする動きも見られる。

 日本においても、アートによる経済効果および社会問題解決への貢献に対する認識が拡がってきている。今後、公的資金への依存が難しくなると予想されるなか、資本市場(直接金融)の活用を検討すべきではないだろうか。

(野村資本市場研究所 竹下 智)

※野村週報 2022年10月10日号「資本市場の話題」より

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