創薬活発化、パイプラインが順調に進捗

 2022年のバイオテック業界は、徐々に新型コロナ特需が剥落しつつある。とはいえその一方で、①新規候補物質の創出、②創薬活動の進捗、③製薬企業への導出、などの動きがみられ、今後は発展の加速が見込まれる。野村では、新しい再生医療等製品の上市や、新たなモダリティ(治療方法)の開発進展など、新技術の実用化に向けた中長期の取組みに引き続き注目している。下図では、バイオテック企業の主なパイプラインについて野村予想を含めたイベントカレンダーを示している。

 22年7~9月期は、特にJCRファーマ、そーせいグループの開発進捗が著しい。①JCRファーマでは、ムコ多糖症Ⅰ型治療薬であるJR-171の患者組入れが完了した。治験結果の速報では脳内ヘパラン硫酸の減少が見られ、JR-171の有効性が示唆されている。②そーせいグループでは、Pfizer社に導出している3品目がP1(フェーズ1)試験を終了した。そのうち2型糖尿病治療薬であるPF-07081532では、平均血糖や体重の減少が所見されるなど、患者への薬効が確認されている。Pfizer 社はこの結果を受けて、22年10~12月期にP2b(フェーズ2b)試験に進むことを想定している。

脳梗塞向けの創薬競争が加速

 バイオテック企業が積極的に新薬の開発を進めているものに脳梗塞がある。罹患患者数が多く、治療方法が限られていることが要因である。厚生労働省によると国内では年間10~20万人が脳梗塞を発症しており、治療法は血栓溶解・回収法や脳保護剤などしか存在せず、病院への搬送が遅れた場合はリハビリしか選択肢がない状況である。つまり症状の寛容には継続的な治療が必要となり、患者QOL(生活の質)の向上ならびに治療費の抑制には新薬の台頭が最優先事項であろう。

 ステムリムは再生誘導医薬レダセムチドの開発を進めており、導出先の塩野義製薬と共同で行った急性期脳梗塞向けのP2(フェーズ2)試験において主要評価項目を達成した。野村では23年1~3月期にグローバルP3(フェーズ3)試験が開始され、これに伴い塩野義製薬からマイルストン7億円を受領すると予想している。一方、骨髄由来MSC(間葉系幹細胞)を用いた細胞製剤開発を行うヘリオスは急性期脳梗塞向けにおいて開発後期段階にあるが、上市に向けて足踏みもみられる。

 ヘリオスでは、終了したP2/3(フェーズ2/3)試験において、HLCM051を投与することで患者症状の改善は見られたものの、主要評価項目は未達となった。ただし、HLCM051の投与後を長期間観察すると、症状が改善した患者割合がプラセボ(偽剤)と比較して増加し、長期間にわたる薬効を示唆した。ヘリオスは上市に向けてPMDA(医薬品医療機器総合機構)と協議を進めており、野村では条件付き承認申請となるかデータを補強すべく追加治験を求められると考えている。

(エクイティ・リサーチ部 松原 弘幸)

※野村週報 2022年11月7日号「産業界」より

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