2050年脱炭素の達成のために、カーボンクレジットや排出量取引への注目が高まるとみられる。
カーボンクレジットは、温室効果ガスの排出削減や吸収プロジェクトの実施で、プロジェクト実施前の排出量見通しを実際の排出量が下回ることにより実現する削減価値(クレジット)である。プロジェクト実施者と、削減量が不足する国や企業との相対取引が基本で、金融商品として転々と売買されることは想定されていない。
カーボンクレジットと似た仕組みである排出量取引は、国や企業が、ある年度に割り当てられた排出枠の過不足をやり取りするスキームである。排出枠は、市場取引で転々と売買されることが想定されている。カーボンクレジットと排出量取引は別々の制度だが、機能やビジネスの可能性には共通点があり、広い意味で1つの制度として捉えたい。22年に発足したGX(グリーントランスフォーメーション)リーグ参加企業を中心に、23年度からは排出量取引が始まる予定である。当初は、一部のカーボンクレジットの取引も同じ市場で扱うことが想定されている。
カーボンクレジットと排出量取引を合わせた広義のカーボンクレジットの機能は、削減価値や排出枠の取引による温室効果ガス削減に留まらない。価格情報を通じた削減手法の優先順位付けや、先進国による途上国への経済支援や技術支援の枠組み整備が期待される。
今後は、広義のカーボンクレジットに関わる新しいビジネスモデルがクレジットや排出枠の流通を軸に生まれるとみられる。
第1は、カーボンマネジメントである。クレジットや排出枠の流通での顧客企業との接点やアライアンス(提携)を活用し、温室効果ガスの排出量の可視化から、排出削減のソリューション(解決策)提供、クレジット流通に至るまで、ワンストップサービスで取り組むビジネスモデルである。
第2は、クレジットや排出枠の流通そのものに係る仲介販売である。自助努力や、国内クレジットや排出枠の購入だけでは削減量が不足する顧客企業では、海外の民間主導クレジットの活用が注目される。顧客ニーズに合わせて、品質が担保された海外の民間主導クレジットを提供するプレーヤーの登場が期待される。
(フロンティア・リサーチ部 高橋 浩明)
※野村週報 2022年11月14日号「新産業の潮流」より