11月18日~11月25日の騰落中国コロナ感染拡大が重石も、米金利低下受け上昇

 中国本土で新型コロナウイルスの新規感染者数が増加し、一部主要都市で都市封鎖(ロックダウン)を実施したと伝わったことで、中国の経済活動鈍化への懸念が広がりました。一方で、23日(水)に公表された11月FOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨で、「かなり多数」の参加者が「利上げペースの減速が間もなく適切になる」と判断していたことが示され、金融引締めに対する警戒感が和らぎ、米長期金利が低下傾向となったことが株価を支えました。米長期金利(10年国債利回り)は18日終値の3.825%に対し、25日は3.686%まで低下しています。

 米長期金利が3.6%台を付けたのは10月初旬以来であり、当時のS&P 500は3700ポイント台でした。同じ長期金利水準でも現在の株価(S&P500 で4000ポイント超)と当時より高水準で推移しています。10年国債利回りが低下した主因は市場のインフレ期待の低下ですが、株式市場はインフレの減速が利上げペースの鈍化を通じて米国株の支援材料になるとみているようです。インフレ減速が”本物か”が12月FOMC(13-14日開催)までの焦点となりそうです。

①経済指標・金融政策:2日(金)、インフレの鍵握る雇用統計

雇用統計、なぜ注目される?

  2日(金)に11月雇用統計が発表されます。労働需給がひっ迫した状況(就業希望者より、企業の求人数が多い状態)だと、賃金が上昇しやすくなります。賃金が上昇すると人々の購買力が上がり、モノ(財)・サービスのインフレが進みやすくなります。モノ・サービスのインフレが続くと企業活動は活発化し、求人数はさらに増加、賃金は上昇しやすくなります。これを「賃金・物価スパイラル」と言い、インフレの過熱が懸念される現在、金融市場から警戒されるメカニズムです。これが、雇用統計に注目が集まる一因です。

今の雇用はインフレを助長?抑制?

 非農業部門雇用者数(以下、「雇用者数」)の市場予想は前月比+20.0万人(10月は同+26.1万人)と、減速するとはいえ依然として堅調です。野村の小清水ストラテジストの試算によれば、インフレを加速させない雇用者数は同+15万人程度です。市場予想通りかそれ以上の雇用者増となればインフレを助長する可能性が高いため、12月FOMCの議論のタカ派化に注意が必要となります。

注目指標目白押し、FRB高官発言にも注視

 13日(火)・14日(水)開催の12月FOMCに向けて、3日(土)からは沈黙期間(FOMCの投票権を持つメンバーが金融政策に関して発言を自粛する期間)に入るため、今週のFOMC関係者の発言には注目でしょう。11月30日(水)に予定されているパウエル議長講演のテーマは「経済見通しと労働市場」です。労働市場が堅調である限りインフレ鎮静化が見込み難い旨が強調される可能性があります。

 注目指標の発表が集中しますが、特に1日(木)の10月個人消費支出・所得統計で発表される、コアPCE(個人消費支出)デフレーター(市場予想は前年比+5.0%、9月:+5.1%)はFRBがインフレの基準とする指標でもあり、注目されます。

②決算:28日(月)サイバーマンデー、年末商戦は小売株投資のチャンスか?

感謝祭の週末、小売に注目集まる

 先週25日(金)はブラックフライデー、28日(月)はサイバーマンデー(感謝祭明けの大規模なオンラインショッピング上でのセール)です。これらを踏まえ、29日には、NRF(全米小売業協会)が感謝祭週末の小売売上の状況について会見を行う予定です。一部報道によれば、ブラックフライデーのインターネット通販の消費額は前年比+2%となったとされています。小売セクターにとっては、年末商戦は追い風となるでしょうか?

 まず、小売の推計やデータは、売上高(単価×数量)の数字であることに留意が必要です。前述の通り「前年比プラス」であっても、インフレ(価格転嫁)がけん引しているケースと、値引き(単価寄与はマイナス)であるものの数量が値引き以上に増加しているケース、いずれの可能性も考えられます。ただ、米最大手小売りのウォルマート(WMT)はじめ各企業が在庫増加とその消化見通しについて多くコメントをしていることを踏まえれば、後者の可能性が高いでしょう。

企業決算を振り返る

 企業決算から見るとどうでしょうか。先週は、家電大手のベストバイ(BBY)、”1ドルショップ”のダラーツリー(DLTR)、高級百貨店のノードストローム(JWN)が発表を終えています。

 家電大手のベストバイの株価は決算発表後上昇しました。EPS(一株当たり利益)が市場予想を上回ったことに加え、通期の予想を引き上げたことが好感されました。

 一方、”1ドルショップ”のダラーツリーの株価は決算発表後下落しました。通期見通しのレンジを前回の会社予想から引き下げました。

 また、高級百貨店のノードストロームも、通期見通しを据え置いたことが株価下落に繋がりました。先々週に決算発表を終えたメイシーズ(M)は通期予想を引き上げた一方、コールズ(KSS)は通期ガイダンスを撤回と、百貨店業界内でも見通しはまちまちです。

EPS”見通し”と在庫管理が重要、消費者の目線は「必需品」か

 このように見ていくと、まず一株当たり利益(EPS)の見通しで市場予想を上回ることができるかが市場に重視されていることが分かります。次に、顧客層に関しては高/低価格帯向けのいずれかが良いとは一概に言えず、「個別企業ごとの在庫管理の巧拙」が影響しているようです。最後に商材別では、ウォルマートが食品事業で好調であることや、ベストバイで家電が復調ということを鑑みれば、消費者が実質的に必需品に近い品目に絞って年末商戦に臨んでいる可能性が考えられます。

 上記の仮定が年明けまで継続するとすれば、年末商戦をきっかけに小売セクター全体が上昇する、というストーリーは描きにくそうです。あくまで、EPSと在庫消化に関する見通しと商品構成を確認しながらの選別投資が主力となりそうです。今週1日(木)には、前述のダラーツリーの競合ダラーゼネラル(DG)や、大手スーパーのクローガー(KR)、化粧品のアルタ・ビューティー(ULTA)が決算を発表します。

年末商戦が金融政策にも影響?

 株価全体への影響について、堅調な年末商戦が株価の下押し材料となるとの指摘もあります。野村證券の池田チーフ・エクイティ・ストラテジストは、「FRBは年末商戦にブレーキがかかることを確認するまでハト派転換しない」と予想しています。現在の株価は「FRBのハト派転換」を再度織り込んだ結果反発していると言えます。「堅調な年末商戦」がコンセンサスとなった場合、FRBが市場をけん制する目的で「タカ派姿勢をアピールし、株価調整を促す」行動をし得る点には注意が必要です。

(FINTOS!米国株/小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点