日銀サプライズは日本株に局所的影響

 2022年12月20日の「日銀サプライズ」(10年国債利回り変動上限を0.25%から0.50%へ引き上げ)は、日本株にショックをもたらした。以下では、①日本株の動きが利上げ期待の上昇とともに、銀行セクター(押し上げ)と不動産セクター(押し下げ)に集中的に作用したこと、②市場の金利高警戒は2月にいったんピークアウトが予想されること、③2000年、2006~07年の「利上げ局面」はそれぞれ1回、2回で終わっていること、を指摘する。

 翌日物金利に関わる「日銀利上げトレード」は既に金利先物市場で巻き戻されており、株式市場でも2月までに解消される公算が大きいとみる。サプライズ後の東京市場では円高・株安の展開が強まった。野村では米国でのインフレ率の低下とFRB(米連邦準備制度理事会)のハト派(金融緩和重視)的対応の余地拡大を想定し、23年は円高・株高の組み合わせになりやすいと想定する。日本銀行のタカ派(金融引き締め重視)的対応という円高圧力が加わり、日本株にも想定外の下押しが作用した。

 しかし、市場の反応は局所的にとどまっており、「金融政策の大転換」を全面的に織り込むような形にはなっていない。

 第一に、業種別株価指数の騰落率は、銀行株上昇の突出とともに、不動産株の下落が目立つ。利上げ局面でPBR(株価純資産倍率)が高い成長株が不利、PBRが低い割安株が相対的に有利という、セオリー通りの関係も一応成立しているが、銀行/不動産の動きに比べると限定的だ。

 第二に、TOPIX(東証株価指数)500のファクターリターンを「金融除く」ベースで確認すると、バリューファクター(BPR(株価純資産倍率))の上昇は、日銀サプライズ当日の反応は大きかったものの、その後は伸び悩んだ。また、仮に国内金利の上振れを強く織り込むのであれば、負債比率が高い銘柄が相対的に下落するはずだが、そのようにはなっていない。

 銀行/不動産に集中して表れている「利上げトレード」は、反転するリスクに注意を要する。金利市場の「利上げ期待は行き過ぎだった」という反応とは裏腹に、株式市場では当面のイベントに対する期待(警戒)を持ち続けている可能性がある。

政治配慮、FOMC、過去の利上げ局面

 とりわけ、1月に予定されている2つのイベントへの注目度の高さが影響していることがあり得る。

 第一のイベントは、1月17~18日の日銀金融政策決定会合である。同会合では「展望レポート」で23~24年度の消費者物価見通しが上方修正されることが有力視されているだけでなく、2会合連続サプライズへの期待(警戒)も燻っている。その証拠に、1月6日以降、10年国債利回りは日銀が上限としている0.50%近辺での推移が続いている。

 第二のイベントは、1月末までに目途がつくとされる次期日銀総裁選びの行方である。従来、市場参加者にとっての次期総裁候補は現在の副総裁である雨宮正佳氏か前代副総裁の中曽宏氏かの「2強」と見られていた。そこに22年12月28日の産経新聞報道を契機に、前々代副総裁の山口廣秀氏が第3の候補として浮上した。

 山口氏は黒田日銀によるイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)およびマイナス金利政策を批判してきた経緯から、総裁就任となれば金融政策の正常化が進むとの見方が強まっているとみられる。

 しかし、上記2つの注目イベントを通過すれば、株式市場における「金融政策正常化トレード」には限界が訪れよう。

 第一に、「金融緩和継続による円安およびインフレ圧力」への批判に配慮するという政治的な判断については、4月の統一地方選を終えると一巡する可能性がある。

 第二に、すでに米国は利上げの最終局面に入っている。2月1日の会合で25bpないし50bpの利上げを実施すると、近い将来の米利上げ打ち止めを急速に織り込み、米金利低下、円高圧力になる可能性がある。日銀利上げ期待には向かい風となる。

 第三に、1990年のバブル崩壊、99年のゼロ金利突入を経て、日銀は2度の「利上げ局面」(2000年、2006~07年)を経験しているが、金利引き上げはそれぞれ1回、2回にとどまった。2007年の0.00%から0.50%への利上げはFRB がFF レート(フェデラル・ファンド・レート)5.25%を維持した期間に行われたという点で、今次局面との類似性はある。しかし、マイナス金利解除を超えて日銀の「追加利上げ」を想定し続けるには、米国の将来の利下げを強く否定しないと矛盾をきたす。

 翌日物金利にかかわる「日銀利上げトレード」はすでに金利先物市場で巻き戻されているが、株式市場でも2月には反転する公算が大きいとみる。

(市場戦略リサーチ部 池田 雄之輔)

※野村週報 2023年1月23日号「焦点」より

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