①1月20日~27日の振り返り:PER主導の相場が続く

 米国株の主要3指数では、先週に続きナスダック総合指数の強い展開が続きました。強い需要見通しが示されたテスラ(TSLA)の株価上昇など個別要因もありますが、グロース株が米国株全体でのPER(株価収益率)の上昇の恩恵を受けている面もあるでしょう。

 株価は、予想EPS(一株当たり純利益)×PERで計算されます。

 予想EPSは企業業績の予想ですので概ね景気見通しと連動し、PERは長期金利と反対に動く傾向があります。米長期金利(米10年債利回り)そのものは週を通して大きな変化はありませんでしたが、多くの経済指標(例えば、12月個人消費支出のPCEデフレーター等)でインフレの鈍化傾向が示されました。これが米金融政策のタカ派化懸念を後退、ひいてはPERを上昇させたと言えます。

 S&P500指数を例にとってみると、PERは足元で上昇しています。18.0倍と、2016年以降の平均である18.2倍に迫っています。

 一方で、2023年の予想EPSは年末から低下傾向にあり、リビジョン・インデックスと呼ばれるアナリストの業績予想の方向性を示す指標は上方修正優位と下方修正優位の分岐点となる1を下回っています。

 つまり、足元の決算発表を受けた緩やかな予想EPSの低下を打ち消す形でPERが上昇し、結果として株価は上昇するという相場が続いていることになります。前述の通り、PERは直近の平均値まで上昇してきていますので、さらなる株価上昇には市場がさらなる金融緩和期待を確信する材料が必要と言えそうです。

②今週の気になる金融政策: 3日(金)の雇用統計

 当然、1日(水)に結果発表されるFOMC(米連邦公開市場委員会)は注目イベントの筆頭株でしょう。ただし、既に金利市場には、12月の0.50%ポイント利上げから減速となる0.25%ポイント利上げがほぼ織り込まれており、2月FOMCにおいては参加者の見通しを示す「ドッツ」の発表もありません(次回は3月)。結果発表後のパウエル議長のコメントは重視されますが、金融政策の維持についてはこれまでと同様「しばらく(for some time)」との表現に留まると見込まれ、2月FOMCでは大きな方針転換は示されない可能性も相応にあります。

野村が雇用統計に注目する理由

 FOMCを波乱なく通過した場合、市場の視線は3日(金)発表の1月雇用統計に移るでしょう。野村の小清水ストラテジストは、(中期的に)「雇用が堅調ならインフレ率は前年比4~5%へ再加速する」と予想しています。現在は、サプライチェーン問題の解消に伴う財のインフレ減速が全体のインフレ率を下押ししている状況です。しかし、財のインフレが平常に戻り、サービスインフレの上昇が現状のままとなれば、全体のインフレ率は再加速する試算となっています。

雇用統計は堅調が見込まれる

 小清水ストラテジストは、非農業部門雇用者数で前月比+15万人(コロナ禍前の水準)以上の増加が続くことを堅調な雇用の一つの目処としています。野村では同+21.5万人を予想(市場予想は同+18.5万人、前月は同+22.3万人)しており、堅調な雇用環境は続くと見られます。もっとも雇用は景気の遅行指標であり、先行きを見る指標としては不適切との指摘も見られます。一方で、FRB(米連邦準備理事会)が雇用を景気判断の基準として見ていることから、金利の低下(期待)=PER上昇が今の相場であるならば、雇用統計にも相応の目くばせが必要と考えられます。

③今週の気になる決算:1日(水)のメタ・プラットフォームズ

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

 今週はGAFAMのうち、先週決算を終えたマイクロソフト(MSFT)を除く4社が相次いで決算を発表します。今回の2022年10-12月期決算発表および2023年通期の見通しを方向付ける週となるでしょう。2日(木)に予定されている、アップル(AAPL)、アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドットコム(AMZN)が天王山となりそうですが、ここではその前日、1日(水)に発表されるメタ・プラットフォームズ(FB)の決算をビッグテックの試金石として注目したいと考えます。

 10-12月期は、多くの米国企業にとって「期末」となり、また年末商戦もあるため広告業にとっては書き入れ時となります。野村が提携するウルフリサーチのレポートによれば、ツイッター社の経営方針を巡る混乱は、他のデジタル広告各社の受注にとってはプラスに働いた、としています。また、いわゆる”巣ごもり需要”の反動も一巡し、ユーザー数や利用時間は改善傾向にあると見られ、アップルによるアプリのプライバシー強化にも引き続きうまく対応できていると見られます。こうした中で、マクロ要因の影響を加味した2023 年の見通しが短期的な株価を左右しそうです。営業費用の圧縮に関しても、11月に発表された人員削減に加えた施策が示されるかに注目が集まります。

 なお、広告以外のソフトウェア周りの需要は先週のマイクロソフトの決算内容が最も参考になるでしょう。大きな3セグメントのうち、ビジネスソフトウェア部門が市場予想を上回りました。サービスナウなど他社でも、競争力のあるソフトウェアは堅調であるとみられます。一方、クラウドサービス部門と個人向けPC・ゲーム部門での市場予想下振れはセクターにとって気がかりです。当社が、クラウドサービス「Azure」の増収率について2022年10-12月期の前年同期比38%から2023年1-3月期に同30%まで低下(為替影響調整後)する予想を示した背景を考えると、アマゾン・ドットコムやアルファベットのクラウド事業にも注視が必要と考えられます。

 ここまでのところ「決算は市場予想ほど悪くないが、見通しは保守的」とする企業が大勢であり、アナリストの業績予想の方向感を変えるまでには至っていません。この形では、大きな転換点になりづらいと言えるでしょう。一方で、ここから極端に悪い内容が重なれば短期的には株価は下落しますが、景気後退への確度が高まり「年内利下げ」が見えてきます。セクター選択にも影響しうる今週の決算発表からは、目が離せません。

(FINTOS!米国株/小野﨑通昭)

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