野村證券投資情報部 尾畑秀一シニアストラテジストの解説

 2月10日、日経新聞(電子版)は、政府が次期総裁として経済学者で元日銀審議委員(1998-2005年)の植田和男氏を起用する人事を固めたと報じています。市場では、雨宮正佳日銀副総裁が最有力候補と見られていましたが、雨宮氏は政府の打診を辞退したと報じられています。市場では、雨宮氏が新総裁に就任した場合は、現行の金融緩和政策が維持される可能性が高いと見られていたことから、為替市場では円がドルに対して1円50銭程度上昇し、130円前後で推移しています。

 植田氏は1998~2005年に日銀審議委員を務めていましたが、現行の金融政策に対するスタンスは必ずしも明らかではありません。2022年7月6日に同氏が日経新聞に寄稿した「経済教室」では、現在の金融政策の問題点としてオーバーシュート型コミットメント(2%のインフレが持続的に達成できるまで金融緩和を継続する政策方針)を採用しているため、微調整が難しい点を挙げています。その上で、「日銀は出口に向けた戦略を立てておく必要がある」、「異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要だろう」と述べています。このため、植田氏が正式に日銀総裁候補となった場合には、市場では政策修正期待が高まりやすいと想定されます。一方で、市場の機能の低下や金融機関の業績への悪影響など、「金融政策の副作用」を懸念するような記述は見当たりません。現時点で政策修正を急ぐ可能性は低いのではないかと見られます。日銀のタカ派(利上げに積極的姿勢)化を警戒する市場の初期反応は長続きしない可能性が高いと考えられます。

 政府は日銀総裁・副総裁人事案を2月14日に国会に提出する方向で調整していると報じられています。その後、衆参両院で正副総裁候補の意見聴取が行われることから、各候補の政策スタンスが明らかになると見られます。日経新聞の報道によれば、政府は副総裁には内田真一日銀理事、氷見野良三前金融庁長官を起用する意向です。

(野村證券投資情報部 尾畑秀一)

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