日本政府は2月14日、次期日銀総裁に元審議委員で経済学者の植田和男氏、副総裁に氷見野良三前金融庁長官、内田眞一日銀理事を起用する国会同意人事案を衆参両院に提示しました。ブルームバーグの調査によれば、次期日銀総裁として雨宮副総裁が最有力候補と見られていたことから、植田氏の起用は、市場参加者にとってはサプライズでした。

 市場では雨宮氏が新総裁に就任した場合、現行の金融緩和政策が継続するとの見方が支配的だったことから、今回の人事案が報じられた直後の市場は株安・債券安・円高で反応しました。ただし、今回の人事案は金融政策の副作用にも配慮したバランス重視の手堅い布陣との評価が定着しつつあり、サプライズ人事の影響は短期間で一巡しました。

 植田氏はマサチューセッツ工科大学大学院で著名経済学者であり、FRB(米連邦準備理事会)副議長も務めたスタンレー・フィッシャー氏に師事するなど、金融政策研究の第一人者と見られています。また、1998年から日銀審議委員を7年間務めるなど、金融政策の実務面での経験もあります。

 副総裁として指名を受けた氷見野元金融庁長官は、国内金融機関の監督経験があるほか、金融安定理事会(FSB)常設委員会議長を務めるなど、海外当局との親交も深いことで知られています。

 同じく、内田日銀理事は、2012年から金融政策の企画・立案を担う企画局長を5年間務め、黒田総裁の下で導入された量的・質的金融緩和政策やマイナス金利政策、YCC(長短金利操作)政策においても中心的な役割を担いました。

 金融政策に対する植田氏の政策スタンスは中立的と見られます。2月10日、植田氏は現行の金融政策に関して、「現状では金融緩和の継続が必要だ」との見解を示しました。2022年7月6日の日本経済新聞への寄稿では「拙速な引き締めは避けよ」とする一方で、「異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要だろう」とも述べています。

 また、政策修正における問題点として「長期金利コントロールは微調整に向かない仕組み」であり、金利上限の引き上げや対象年限の短期化は、追加的な政策修正期待を喚起してしまい、「大量の国債売りを招く可能性がある」と指摘しています。

 足元の市場ではYCCの限界を指摘する向きもあり、新執行部の下でも政策修正期待が継続すると予想されます。仮に植田日銀が過度の国債売りを回避しながら金融政策の修正を図るとすれば、米国での利上げ打ち止めなど、国内長期金利に対する上昇圧力が緩和した後になる可能性が高いと想定されます。

 今後、衆院と参院それぞれで正副総裁候補の所信聴取と質疑が行われます。この場で踏み込んだ発言が飛び出す可能性は低いものの、3名の政策スタンスを確認する良い機会となりそうです。

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