①2月10日~2月17日の振り返り:一進一退

20日(月)はワシントン生誕記念(プレシデンツ・デー)のため、米国株式市場は休場です。

1月CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価)やFRB(米連邦準備理事会)高官発言を受けて利上げ継続への警戒感が強まりましたが、米国景気は堅調との見方から一進一退でした。

②今週の気になる経済指標:21日(火)の2月PMI速報値

堅調な経済が市場の基本シナリオだとするならば、先行指標である21日(火)発表の2月S&PグローバルPMI速報値がまず注目されます。400以上の企業への受注や雇用などにアンケート結果に基づいて景況感を判断するもので、類似のISMデータより早く公表されることがメリットです。

一方で、1月の雇用統計やCPI(消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)の上振れを踏まえれば、引き続きインフレ指標と金融政策への影響にも目くばせが必要です。22日(水)の1-2月FOMC議事録、24日(金)の1月個人消費支出・所得統計におけるPCE(個人消費支出)デフレーターに関心が集まります。

米国株のEPSは23年踊り場、24年に2ケタ増へ

今号では、株価の位置を中長期的な目線で確認してみたいと思います。下記はS&P500構成企業のEPS(一株当たり利益)です。2023年はともに踊り場(前年比1桁増益)となっており、2024年に10%増益への回帰が見込まれています。

(注)予想はリフィニティブ集計による2023年2月17日時点の市場予想平均。(出所)リフィニティブより野村證券投資情報部作成

野村の2023年末S&P500予想は4500ポイント

 野村の2023年末S&P500予想は4500ポイントです。(2月13日時点、2024年以降は未開示)

「S&P500=4500」の場合のPER

各年の予想EPSを基準に、S&P500が4500ポイントとなるPER(株価収益率)を計算してみると

2023年予想EPSベース…20.08倍

2024年予想EPSベース…18.04倍

となります。

2016年以降の平均PERは18.2倍ですから、2023年の予想EPSが実現しても、やや高めのPERが正当化される環境(インフレが落ち着き、長期金利が明確に低下する環境)でなければ、「4500」達成のハードルは高いと言えます。一方で、2023年後半にかけ、株式市場が2024年の予想EPSを織り込む時期になれば「4500」が現実味を帯びてきます。

予想EPSは下方修正優位であることに注意

注意点もあります。足元の S&P500指数構成企業のリビジョン・インデックス(RI、直近4週間にアナリストが業績予想を上方修正をした銘柄数÷ 下方修正をした銘柄数)は1を割り込み、前述の予想EPS自体が低下傾向にあります。

1四半期前・2四半期前に比べて下方修正の谷は浅くなっているようにも見受けられますが、2024年の再成長を見込んで米国株に投資するのであればRIも要注視と言えます。

セクターではどこが有望か?

以下に、2024年のセクターごと(産業グループ24分類)のEPSの前年比変化率を掲示しました。

2024年は、半導体・半導体製造装置が再度成長シナリオに戻る他、小売やメディア・娯楽なども20%近い成長を遂げる見込みです。「小売」には、アマゾン・ドットコムやブッキング・ホールディングス、「メディア・娯楽」にはアルファベットやネットフリックスが、「消費者サービス」には、外食、ホテル、クルーズ船運航企業などが含まれます。

2025年予想は

今年2023年が不透明だからこそ、敢えて2年先を考える意義もあると考えます。中長期的な成長を見込めるセクターと株式を探すヒントにしていただければ幸いです。

(注)2023年2月17日時点のリフィニティブ集計による市場予想平均。産業グループ名に付されている(   )内の番号は、識別のために野村證券投資情報部で付与している番号。*は景気敏感業種。(出所)リフィニティブより野村證券投資情報部作成

③今週の気になる決算:21日(火)のウォルマート

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

米国最大の実店舗小売企業、ウォルマート

21日(火)には、全米で5000以上の実店舗を経営する全米最大の小売りチェーン、ウォルマートが決算を発表します。Everyday Low Price (EDLP) を戦略として掲げており、景気後退・鈍化懸念の中で同社の低価格戦略が注目されています。

前回の決算は堅調

2022年8-10月期決算(以降「前回決算」)では、既存店増収率が市場予想を 4%ポイント以上も上回る好決算となり(来店客数、客単価とも増加)、売上高の2023年1月期のガイダンスは上方修正されました。業界全体で在庫消化のための値引き販売の多さや、利益率の低い食料雑貨の売上構成比拡大の影響が懸念されていました。しかし、当社に関しては食料雑貨でシェアを拡大したことで、米国事業の営業利益率は予想ほど落ち込みませんでした。当社の価格戦略がプラスに働いた決算だったと言えます。

Eコマースも着実に増加

当社は、2021年にはTikTokの米国事業の買収に名乗りを上げるなど、Eコマースに積極的なことでも知られています。当社の前回決算における米国Eコマース売上高は前年同期比+16%となり、 過去3期分でみたEコマースの売上構成比は12.2%まで高まっています。

年末商戦と、景気後退への備えが注目される

前回決算では、年末商戦に備え在庫を積み増し、通期見通しも保守的でした。ただ、その後に発表された小売売上高などのマクロ指標は堅調な米国消費を示唆しています。

当社は1月決算企業のため、2024年1月期通期の見通しも注目されます。景気後退局面(2008~2009 年)において、当社傘下の米国ウォルマートとサムズクラブの既存店増収率は1桁台前半でした。今回予想される景気後退局面においても競合との価格差が有利に働き、より高価格帯の商品を扱う小売事業者からシェアを奪うことができる可能性があります。米国の生活必需品小売業界を見る上で、見通しや戦略に関するコメントに市場の関心が集まります。

成長セクターを見通すチャンスの週

今週は、小売では23日(水)にブッキング・ホールディングス、半導体では22日(火)にエヌビディアが決算を発表します。両セクターとも足元の決算は景気後退の逆風を受けた内容になりそうですが、長期的には成長軌道への回帰が期待される企業群です。実績・見通しに明るい兆しはあるか、よく確認したいと考えます。

(FINTOS!米国株/小野﨑通昭)

ご投資にあたっての注意点