米国の各州では、公務員年金によるESG(環境、社会、ガバナンス)投資について、政権政党が民主・共和のどちらかによって相反する政策が打ち出されている。

ブルー・ステート(民主党寄りの州)では、州内の公務員年金によるESG 投資促進を目的とした政策が打ち出されている。例えば、メイン州では、2026年までに公務員年金による化石燃料への投資の引揚げを義務付ける法律が成立し、メリーランド州では、公務員年金に対し気候変動リスクが伴う取引の評価を義務付ける法律が成立している。これらの法律は投資リスクの一種である気候リスクを削減することによって、公務員年金受給者の最善利益を追求することができるという考えに基づくものであり、50年頃までの温室効果ガス排出量ネットゼロ(ネットゼロ)の実現に向けた取り組みでもある。

他方で、レッド・ステート(共和党寄りの州)では、公務員年金によるESG投資を事実上禁止する法律(反ESG 投資法)が成立している。例えば、フロリダ州では、同州内の公務員年金に対して、運用プロセスにESG要素を考慮することを禁止し、金銭的利益のみの獲得を義務付ける法律が成立している。テキサス州では、同州内の公務員年金とエネルギー企業への投資を拒否する金融機関との取引の禁止を義務付ける法律が成立し、テキサス州政府は金融機関10社、資産運用会社が運用するファンド約350本を取引禁止対象に指定している。これら反ESG投資法は、ネットゼロ実現などの社会的課題解決は金銭的利益に直結していないため、ESG投資の推進は、公務員年金の加入者及び受給者の最善利益に適っていないという見解に基づくものである。

日本では、政府が策定した資産所得倍増プランにおいて、アセットオーナー(年金基金等)に対して、受益者の最善の利益を追求するべく、運用力を強化する必要があることが示された。ESG投資に関するスタンス、取り組みも重要な論点となろう。米国のブルー・ステートとレッド・ステートは、ESG投資が年金加入者・受給者の最善利益に適っているのかという根本的な考え方をめぐり分断してしまっているのが実情である。日本でどのように議論が進むのかも含めて、今後の展開は注目に値する。

(NOMURA HOLDING,US 岡田 功太)

※野村週報 2023年2月27日号「資本市場の話題」より

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