不確実な未来を切り開くテクノロジーへの投資

サプライチェーン寸断リスクが高まる

世界規模の疫病の流行や天災、地政学リスクの拡大により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。

代表的な例は、新型コロナの感染拡大によるサプライチェーンの寸断です。日本の製造工業稼働率指数をみると、コロナ禍の行動規制による人的リソースの不足を背景に2020年5月にかけて指数は大きく低下しました。その後、経済活動の再開とともに、年後半にかけて急速に回復しましたが、2021年7月以降、半導体に代表される部材不足を受け、再び稼働率は低下しました。2022年12月時点でも稼働率はコロナ禍前の水準を完全には回復していない状況です。

共通価値観の公表が求められる

グローバル企業においては、人権、環境、気候変動などを意識したバリューチェーンの構築が必要不可欠です。近年、こうした社会的な共通価値観の公表が求められています。

2015年のパリ協定採択以降、多くの国・地域でGHG(温室効果ガス)削減目標が設定され、カーボンニュートラルへの対応が進められています。GHG排出に対して企業には、事業者自らによる直接排出(Scope1)だけでなく、他社から供給された電気や熱の使用に伴う間接排出(Scope2)や、それ以外の事業活動に関連する他社の排出(Scope3)まで、管理し、開示することが求められています。

気候変動と並び、バリューチェーン上で必要な価値観として関心が高まっているのが人権問題です。外国人移民労働者の不当待遇などが、不買運動を招く事案に発展するケースもあります。

2020年12月に公表されたEUによるバッテリー規制案は、製造・廃棄時のGHG排出量(カーボンフットプリント)の表示義務化や、責任ある材料調達に加え、リサイクルに関連する規制も盛り込まれています。

欧州委員会「Industry5.0」の概念

企業には、環境や人権、地政学リスク、天災・疾病などを考慮したバリューチェーンの構築が求められます。実現には、サプライチェーン全体の可視化や、データに基づいた意思決定、決定を柔軟に実現するため、サプライチェーンに加え、製品開発からの流れを指すエンジニアリングチェーンの効率化、高度化が必要です。

EUがIndustry4.0に続くコンセプトとして2021年に発表した「Industry5.0」では、人間中心の視点(ヒューマンセントリック)や社会・環境の観点(サステナビリティ―)、有事からの回復力(レジリエンス)がキーコンセプトとなっています。これに先駆けて、2016年に日本政府が発表した「Society5.0」も、「人間中心」「持続可能性」をコンセプトにしたものです。

企業には、環境・社会に適応するための投資に加え、それを実現するための企業活動の効率化・高度化に資する、人間の能力を拡張させるようなテクノロジーへの投資が必要となるでしょう。

Industry5.0に有効なテクノロジー

サプライチェーンやエンジニアリングチェーンを可視化する技術として、デジタルツインの活用が広がっています。デジタルツインは、製品の設計や稼働している機器から得られるデータを、デジタル世界に再現する技術です。現場作業者の生産活動を効率化させる技術としても、デジタルツインは活用されており、人間の能力を拡張させるテクノロジーとしても注目されます。

その他、人をセンサーで感知して止まり、柵なしで設置が可能な産業用ロボットである「協働ロボット」や、現実世界の中にホログラム(3D映像)を表示する技術である「MR(複合現実)」なども、人間が中心となる持続可能な産業への変革に資するテクノロジーとして今後の進展が期待されます。

(投資情報部 大坂 隼矢)

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