近年、グローバルに事業を展開する企業には、人権、環境、気候変動など、社会的な共通価値観の公表が求められており、企業の経営判断に大きな影響を与えている。

具体的には、2020年12月に公表されたEU(欧州連合)によるバッテリー規制案が挙げられよう。同案は、製造・廃棄時のカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)の表示義務化や、人権などに配慮した材料調達に加え、リサイクルに関する規制も盛り込まれている。同案が公表されて以降、韓国や中国の電池メーカーなどが、再生可能エネルギー由来の電源比率が高い欧州域内での工場新設を積極化させている。

社会的な共通価値観を公表し、積極的な取り組みを進める企業の代表例が米国のアップルだ。同社は30年までにサプライチェーン(供給網)の100%カーボンニュートラル化を目標に掲げている。同社製品を製造するEMS(電子機器製造受託)各社に加え、部品や原材料を提供している企業は、カーボンニュートラルを実現した生産を開始し、それを証明しなければならない。

このように、社会的な共通価値観の公表や改善への取り組みは、「やった方がよい」という世界から「やらなければならない」という世界へと大きく変化している。

さらに企業には、新型コロナに代表される世界的な疫病の流行や高まる地政学リスクにも、柔軟に対応していくことが求められている。こうした状況のもと、企業がまず実施しなければいけない作業は、現在のサプライチェーンを可視化し、把握することであろう。

この分野で期待されているテクノロジーの1つがデジタルツインだ。デジタルツインとは、現実の世界から収集した様々なデータを、デジタルの世界に再現するテクノロジーである。ドイツのシーメンスは、デジタルツインを活用して、製品のカーボンフットプリントを集約、算出するツールを提供している。

また、製造業においては、製品設計から、調達、生産ライン設計、製造・生産、保守サービスまでを指すエンジニアリングチェーンでも、可視化や効率化に向けたデジタルツインの活用が広がっている。

様々な環境の変化に対応するため、サプライチェーン全体を可視化する取り組みの進展に期待したい。

(投資情報部 大坂 隼矢)

※野村週報 2023年3月6日号「投資の参考」より

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点