民生用エレクトロニクス市場は低調

民生用エレクトロニクスの市場は全般的に低調に推移している。2022年10~12月期はスマートフォンやPC の出荷台数が前年同期を20~30%下回り、テレビ用液晶パネルの価格も底這いが続いた。

巣ごもり需要の好影響があったカテゴリーでは悪化が顕著である。ソニーグループのゲーム事業では、アドオンコンテンツやネットワークサービスの減収トレンドが続いている(ただし、自社ソフトのヒットがあり同社の業績は野村予想を上回った)。キヤノンやブラザー工業はレーザープリンターの市況が悪化しているとコメントした。低調な年末商戦を受け、北米では流通在庫の調整が発生している。セイコーエプソンのインクジェットプリンター、ローランドの電子楽器、JVCケンウッドのカーオーディオなどで、1~3月期の販売が鈍くなるとの見通しが示された。

中国の消費マインド悪化も厳しかった。22年10~12月期の中国売上は、カシオ計算機の時計事業が前年同期比38%減(現地通貨ベース)、ヤマハの楽器事業が同24%減と、我々の従来予想を下回った。

インフレの影響を受けにくい高額商品は好調を維持している。ミラーレスカメラ・交換レンズは年末商戦も順調で、キヤノンやタムロンの23.12期ガイダンスでは高水準の利益を維持可能との見方が示された。富士フイルムホールディングスのイメージング事業も好調だった。ヤマハやローランドの電子ピアノは、エントリーモデルの販売が軟調な一方で、高級モデルには悪化の兆しが見られないとのことである。時計も同様で、普及価格帯の市況は悪化しており、シチズン時計の外販ムーブメントの販売が落ち込んでいるが、セイコーグループの「グランドセイコー」など高級機械式時計の市況は依然として強い。

リオープン関連も引き続き堅調である。パナソニック ホールディングスのアビオニクスの売上は22年10~12月期に前年同期比86%増、前四半期比30%増と大きく回復した。教育需要の戻りを受け、ヤマハの管弦打楽器、カシオ計算機の関数電卓、セイコーエプソンのプロジェクターなども順調である。今後は時計などでインバウンド需要の復活にも期待が持てるだろう。

国内BtoCやオフィス機器が相対的に堅調

耐久消費財は需要全体に不透明感が残る状況と言える。当面は、遅れている値上げ効果の発現が見込まれる国内BtoC(消費者向け)や、供給制約からの改善効果が相対的に強く出るオフィス機器が、相対的に堅調な事業領域になると野村では見ている。

日本の家電市場は21年夏以降に停滞が続いており、在宅特需は既に剥落している。今後は遅れていた値上げにより収益性が回復するとの見方に変更はない。実際、既存製品の一斉値上げも含めた価格転嫁に積極的なパナソニック ホールディングスやエレコムは、22年10~12月期に前四半期比で利益率良化が見られた。

ただし、「モデルチェンジのタイミングでしか価格変更をしない」という旧来の商慣習にとらわれた同業他社の値上げタイミングが遅いため、両社の数量シェアが下落しており、値上げ効果の発現が我々の想定より遅れている。今後は同業他社も値上げに動くと予想され、23年度には国内BtoC の利益が回復に向かうと見ている。

サプライチェーン(供給網)問題は完全に正常化してはいないものの、多くのカテゴリーで供給制約の改善が進んだ。ソニーのPS5の出荷台数は22年10~12月期に前年同期比82%増の710万台となり、会社は23.3期通期予想を1,800万台から1,900万台に上方修正した。オフィスMFP(複合機)の供給も回復しており、コニカミノルタのオフィス事業では受注残の解消が進展した。リコーについては供給回復が遅れている印象であるが、一部部材サプライヤーの供給問題や、直販比率の高さなどが要因であり、24.3期に向けては供給が回復するとの見方に変更はない。

22年10~12月期決算では、自己株式取得の動きも多く見られた。JVC ケンウッドは、株主還元方針を「配当性向30%を目安」から「総還元性向を指標とする」に変更した(目安については23.3期終了後に次期中計で公表予定)。ワコムは25.3期までに総額100億円上限の自社株買いを実施する方針を発表した。シチズン時計は、400億円・7,500万株(自己株除く発行済株数の25.6%)を上限とする自己株式の取得を発表した。

資本効率の改善が進む点は前向きに評価できる一方で、各社のキャッシュアロケーションの全体像が見えにくいとの印象も受けた。成長戦略と株主還元のバランスなど全体戦略を明確に示すことで、企業価値の最大化に向けた、より建設的な市場との対話につながると考える。

(エクイティ・リサーチ部 岡崎 優)

※野村週報 2023年3月13日号「産業界」より

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