ディフェンシブ性が求められる局面

2月の日本株の強さは、中国経済のリオープン(経済活動の再開)など先行きの好材料を積極的に織り込んだ。しかし、米国では銀行破綻によって金融政策が一層困難になっている。ただでさえ、オーバーキル(引き締めの行き過ぎ)回避とインフレ鎮静化の両立は困難に見えたが、金融不安の封じ込め、という3つめの難題が加わった。3月22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)発表をハト派(景気配慮)対応で乗り切ったとしても「インフレ対応先送り」と見なされるリスクが残る。

さらに、国内情勢としても、①ガイダンスに向けての業績不安、②日本銀行決定会合(4月28日)に向けての不透明感が燻る。日本株戦略は全体として、世界景気に対するディフェンシブ性が要求されると見ている。食品、ヘルスケア、インバウンド(訪日外国人)関連などが有望と考える。

米銀破綻を契機にした日本株の急落は、ファンダメンタルズの悪化に逆行して上昇していた分の剥落という面がありそうだ。日本の実質輸出は「中国の春節明け後」も減少傾向が続いている。にも関わらず、TOPIX(東証株価指数)は2021年11月以来の高値水準まで上昇した。このような乖離は21年9月にも発生し、「半導体不足で輸出は減少、首相交代期待で株価は急騰」という状況だったが、まもなく元の水準に収れんした。今回ファンダメンタルズで問題となるのは、世界的なサービス消費堅調/モノ消費不調という偏りである。前者はグローバルでの中央銀行の利上げを後押しする一方、後者は日本企業の業績面で外需メリットが乏しいことを意味する。

2月に目立った「割安株ブーム」は、東証がPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に、企業価値向上の取り組みを強く開示要請する方針の影響が取り沙汰された。

実際はどうか。①米雇用統計(2月3日)の上振れで米金利上昇とともにバリュー株(割安株)が加速的に上昇、これに日銀へのタカ派(金融引き締め重視)警戒も重なったが、②2月24日の次期総裁候補(植田氏)の所信聴取で円債が買い戻され、バリュー株優位も沈静化、③同時に焦点が中国景気の加速に移行、という展開だ。PBR1倍割れは、この先のテーマと考えている。

日銀、中国景気への期待が伺える業種動向

グローバル比較においては、日本株と同様にバリュー特性の強い欧州株も過去1カ月健闘している。もちろん、業種別動向からは、米金利上昇以外の影響も確認できる。すなわち、欧州株ではエネルギー、日本株では金融、資本財・サービス、素材の貢献が大きい。日銀の金融政策正常化および中国景気回復という2つの期待が日本株高パフォーマンスをもたらした面がある。

2月28日発表の長江商学院サーベイでは、中国企業の設備投資意欲DIが63.0と、22年4月以降のレンジ(48~56)を突き抜けて上昇。この指標は日本の機械受注に約半年先行する傾向がある。上海ロックダウン(都市封鎖)の22年6月解除までの企業センチメントの腰折れは、日本の7~12月機械受注(民需)の減少をまねいた。逆に、今回の投資意欲DI 上振れは、FA(工場自動化)関連など日本の機械セクターに朗報と言える。家計や企業活動の正常化は当然であるが、家計・企業のセンチメントがロックダウンの「トラウマを克服できそう」という示唆は重要である。

一方、米国とともに中国でも「モノ消費の弱さ」には注意を要する。リアルタイムデータでは物流関連に弱さが表れている。また、日本の鉱工業生産(1月)では、電子部品・デバイスの在庫率が11年7月以来の高さまで悪化した。悩ましいのは、両者のバランスである。中国リオープンは好材料だが、世界的なインフレ再加速は金利上昇=グロース株(成長株)不利となる。製造業主導であれば、輸出増を通じた業績メリット先行、サービス業主導の場合は「賃金インフレ→ FRB(米連邦準備制度理事会)利上げ強化」というデメリット先行、となる。米・欧・中の家計サービス消費増加→日本経済好影響はモノ消費の4~5分の1と小さい。現状、サービスの急回復が勝り、悪いパターンが成立しつつある。

実際、米国のインフレ・賃金の上振れリスクには警戒を要する。「サプライチェーン(供給網)正常化によるインフレ鎮静効果はほぼ出尽くした一方、需要回復が価格押し上げ」となっている。元をたどると米国株の昨年10月の底入れが消費行動を支えているように見える。このメカニズムを象徴するマンハイム中古車価格指数は、S&P500指数に1~2カ月遅れて強く連動している。パウエルFRB 議長は昨年3 月22日のFOMC以降、インフレ退治のため、8月のジャクソンホール会議で見せたような強い口調での株高けん制を再開する可能性が考えられる。

(市場戦略リサーチ部 池田 雄之輔)

※野村週報 2023年3月20日号「焦点」より

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