全人代後の中国、内需拡大策と産業支援に期待

成長率目標は控えめ、市場の期待を下回る

中国では、全人代(第14期全国人民代表大会第1回全体会議、国会に相当)が3月5~13日に開催されました。5日の李克強首相による「政府活動報告」では、2023年の経済目標と重点政策が報告されました。

2023年の経済成長率目標は前年比+5.0%前後と設定されました。ゼロコロナ政策の解除に伴う経済活動の正常化が景気を下支えする中、市場予想を下回り、保守的な目標と考えられます。市場では、中国の成長に対する期待が高まっていただけに、控えめな目標に落胆して上海総合指数は軟調な動きとなりました。

自律的な景気回復を目指す

政府活動報告は、景気回復へのリスクを踏まえ、成長に慎重な姿勢を示しており、経済活動の再開に伴う自律的な景気回復を目指す内容となっています。  

財政赤字の対GDP比は2022年の2.8%から3%に引き上げられましたが、規律と監視に重点が置かれており、大規模な景気刺激が打ち出される可能性が低いことが示唆されます。

政策の重点は安定から内需、産業、企業支援へ

政府活動の重点分野として8項目を挙げており、2022年12月の中央経済工作会議の決定に概ね沿った内容です。2022年の重点政策ではマクロ経済の安定が上位にありましたが、2023年は内需拡大、産業高度化、企業の発展、外資誘致などを重視しています。

内需拡大については、住民の所得増加、耐久財消費の安定、個人向けサービス消費の回復などが盛り込まれています。地方政府特別債の発行限度額は3.8兆元(約75兆円)と前年から1,500億元増加しました。インフラ投資による押し上げが予想されます。消費の回復策については、大型消費に関する言及から電気自動車や家電分野での支援策が期待できます。

外資誘致については、市場参入規制の緩和、現代サービス業(情報通信、ソフトウエア、情報技術、金融、不動産、教育等)の開放、環太平洋パートナーシップ(TPP11)協定への加入交渉推進が挙げられています。

また、供給サイドの政策では、産業システムの近代化、技術的ブレークスルーの達成、エネルギー安全保障の確保に焦点を当てています。更に、デジタル経済を促進し、監理体制を整備し、プラットフォームエコノミーの発展を後押しするとしています。

新体制では、習主席の影響力が強まる見込み 

今回の全人代では、習近平氏が国家主席に選出された他(3期連続)、副主席、国務院(内閣に相当)などの幹部人事が行われました。

首相には前上海市書記で習近平主席の地方時代の部下である李強氏が新たに就任しました。経済担当の副首相には習主席の側近で前国家発展改革委員会主任の何立峰氏が選出されました。従来は国家主席や副主席が外交を、国務院の首相が経済を担っていましたが、習体制になってから習主席が政策に介入し、首相の存在感が低下しています。今回の人事によって経済政策における習主席の影響力が一段と強まる見込みです。

経済政策全般を取り仕切る首相には副首相経験者が就くことが通例ですが、李強氏には国務院での勤務経験は無く、手腕は未知数です。全人代最終日の会見で李強首相は、今年の経済成長率目標の達成は容易ではないとの見方を示すとともに、雇用や民間セクターの環境改善の必要性を訴えました。

他方、何立峰氏は、財政支出の拡大に比較的寛容であり、インフラ投資などを活用しながら経済の立て直しをはかるとの見方もあります。

中国共産党に権限が更に集中しよう

また、今回の全人代では「党と国務院機構改革」という、13項目の機構改革案が採択されました。データ管理を担う「国家データ局」の設立、科学技術省の機能強化に向けた組織改編、金融監督機能を集約した「国家金融監督管理総局」などが盛り込まれています。米国との対立の長期化が見込まれる中、自立した製造業のサプライチェーンの構築、産業の高度化、デジタル経済の構築、食料安全保障などを進める方針です。憲法で定められている中国共産党が政府全体を指導・管理する体制がより強化されることになります。

新体制下での政策、政権運営に注目したい

習近平体制の3期目のスタートということで、慎重な成長目標が示されたと推察されますが、消費喚起策や産業育成など民間セクターを支援する姿勢が今後具体化されれば市場から好感されるでしょう。4月下旬及び7月下旬などの政治局会議で具体策が示されるかなど、新体制による政権運営と方針に注目が集まります。

(投資情報部 坪川 一浩)

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