にわかに浮上した米金融システム不安

米シリコンバレー銀行(以下、SVB)の破綻を契機として、米国金融システムに不安が広がっている。SVB破綻は、保有債券における含み損発生・拡大を契機として、預金流出が生じた「流動性危機」の性格が色濃い。債券投資の含み損拡大の背景には、もちろん、昨2022年来の米FRB(連邦準備制度理事会)による急ピッチの利上げと連動して生じた米国債利回りの急上昇が存在する。しかし、利上げや米国債利回り上昇が、SVB の主たる顧客であるベンチャー(新興)企業の採算悪化やベンチャー企業に投融資を行っているファンドの財務状況悪化を通じて、預金流出を引き起こしたことの方が、金融不安を顕在化させる主たる経路であったと評価すべきであろう。

3月12日の米財務省、預金保険公社(FDIC)、FRBの共同声明では、SVBの預金全額保護方針が表明された。FRBは「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」と名付けられた、預金金融機関向けの緊急融資制度を導入した。本来、こうした危機対応措置により、パニック的な預金流出が抑制されれば、金融不安は終息に向かうことが期待される。しかし、金融不安が鎮静化しなければ、インフレ抑制が不十分との見方から、当面継続されることが有力視されていた米FRBによる利上げが休止に追い込まれる、あるいは、利下げを余儀なくされる可能性も生じるだろう。

金融引き締めの休止や、利下げへの転換が、金融不安への対応として適切・有効であるかについては疑問もあるだろう。破綻に至ったSVBをはじめ、現在生じている預金流出の一因が、金利(債券利回り)上昇による銀行等の損失拡大である以上、金融政策の方向変化を通じて市場金利の低下期待が高まることは金融不安の抑制に対し一定の効果があると考えられる。

米国金融不安は、4月に発足する植田総裁の下での日本銀行新執行部にとっても示唆を有する。22年12月に市場機能の改善を目指した10年国債利回り許容変動幅の拡大を決定して以降も、日本国債利回りの上昇圧力は継続した。金融不安を背景に米国債利回りが低下に向かうことは、植田日銀が、市場機能改善に向け更なる措置を講ずる緊急性を低下させる効果を持つ。

米利上げ最終局面を象徴

金融不安が早期に終息すれば、2月以降、市場において有力視されていた通り、根強いインフレ圧力の鎮静化に向け、利上げが再開される可能性は残るだろう。それでも、米利上げが最終盤に差し掛かっている、との見方までをも覆す流れが生じているわけではないと考えられる。

2月以降の米国利上げ継続期待が高まった要因の一つは、米国実体経済に関する楽観論の拡大、とりわけ、米国経済がリセッション(景気後退)を回避し、ソフトランディング(軟着陸)に成功する、との見方が強まったことであった。

一方、野村では、23年7~9月期以降、米国の実質GDP(国内総生産)前期比成長率が3四半期連続でマイナスに陥る、リセッションを予想している。既往の米国経済の堅調さは、感染症禍からの回復過程における繰越需要、特に旅行や飲食などサービス関連の繰越需要に支えられたものであり、永続性を有するとは考えにくいこと、米国におけるインフレの加速や持続が、雇用・賃金の過熱によって実現したことを踏まえ、FRBも一定程度の景気悪化を覚悟しつつ、雇用・賃金の過熱感を抑えることを意図して金融政策を遂行していたと考えられることから、リセッションが回避されると考えるのは、もとより過度に楽観的な見方だったと言わざるを得ない。

それに加えて、今般の金融不安の現実化である。もちろん、金融不安そのものが米国実体経済を直接的に強く下押しする要因になるとは限らない。しかし、これまでの利上げ継続を通じて実現した金融環境の引き締まりが、ベンチャー企業やベンチャーファンドの採算悪化を通じて危機を顕在化させた図式は、ここまで米国実体経済の堅調さを支えてきたベンチャー企業などによる活発なリスクテイクを下火に向かわせるという経路を通じて、実体経済にもマイナスの影響を及ぼす可能性を示唆するものであろう。

近い将来のリセッション現実化が視野に入りつつ、米国利上げ局面が終了を迎えるとすれば、その後に待っているのは、米ドル市場金利が早いタイミングで比較的大きく低下に向かう流れであると想定される。足元の米金融不安台頭は、米国利上げ局面の最終盤を画する象徴的な事象であると同時に、早晩現実化すると野村が判断しているリセッションや、米国債利回りを中心として米ドルの金利環境が反転するタイミングを早めるものであったと、評価できるのではないか。

(経済調査部 美和 卓)

※野村週報 2023年3月27日号「焦点」より

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