生成系AIの進化によるAI半導体市場の拡大
AIへの期待が再び市場で高まる
2022年夏以降、「複雑なテキストを入力しても、人間が描いたような画像を出力するAI(人工知能)」や、「高性能なAIチャットボットツール」などが相次いでリリースされたことを受け、AIが再び市場から注目を集めています。
高度な画像やテキストを生成するAI(生成系AI)の進化は、絵を描く、作曲するといったクリエイティブな活動や、文章作成や検索などテキストを介したコミュニケーションに関わる仕事全般に大きな変革を起こすと期待されています。こうしたAIを開発するには、CPUやGPU、ASIC、FPGA(注)など、半導体の中でも演算処理の役割を担うロジック半導体が不可欠です。
必要な用途によって半導体は異なる
AIを構築するには、機械学習が必要です。機械学習は、大量の学習データを機械に読み込ませ、繰り返し計算させることで分類や識別のルールをコンピューターに学習させる技術です。この機械学習は、大量の学習データから学習済みのAIモデルを作り出す「学習プロセス」と、その学習済みのAIモデルに従ってデータの識別、解析を行う「推論プロセス」に分けられます。
この二つのプロセスでは求められる性能が異なるため、それぞれに適した半導体が必要となります。主に、クラウド(サーバー)側で使用される学習用のAI半導体には、大量のデータを処理するための高い演算能力が必要となります。一方、クラウド側だけでなく、スマホや監視カメラなどのエッジ側にも搭載される推論用のAI半導体は、一般的に学習用に比べれば演算能力を必要としませんが、搭載されるデバイスにより必要となる処理能力は様々です。また、デバイスによっては低遅延、低消費電力などがより一層要求されます。
(注)CPUはCentral Processing Unit、GPUはGraphics Processing Unit、ASICはApplication Specific Integrated Circuit、FPGAはField Programmable Gate Array。
学習用ではGPUが一般的
コンピューターでの演算処理にはCPUが使用されてきましたが、ディープラーニング(深層学習)などの学習プロセスでは、アクセラレーター(注)としてGPUを使用することで、処理速度を高める手法が一般化しています。GPUは並列処理を得意としており、膨大な数の計算を繰り返す学習プロセスの仕組みとマッチしました。
学習用ではGPUが現在主流となっていますが、ロジック各社はより学習用に特化した半導体の開発を積極化させています。CPUやGPUだけでなく、FPGAを活用した学習用のSoCを開発し、サーバーの高速処理と電力効率の向上を目指しています。ロジック大手各社はSoCの高性能化を目的にM&Aなどを通じた製品ラインナップの拡充を進めています。
(注)コンピューターの処理能力を高めるために、追加して利用するハードウエアやソフトウエアの総称。
推論用ではエッジAI市場の拡大に期待
搭載されるデバイスにより、必要となる処理能力が異なり、低遅延、低消費電力が学習用以上に要求される推論用のAI半導体ではFPGAの採用が進んでいます。FPGAは、対象のAIモデルに合わせた回路構成が可能で、低遅延や低消費電力も実現できるためです。
推論用のAI半導体をエッジ側に搭載し処理を行うことで、通信遅延やクラウドの負荷を減らす仕組みがエッジAIです。例えば、監視カメラやスマホに搭載されたエッジAIは、顔認証などのAI処理を行い、特定の人だけロックを解除することができます。エッジAIの有望市場である自動運転分野では、半導体や大手IT企業、自動車関連各社が、AI半導体の開発にしのぎを削っています。
AIは半導体市場の技術革新をけん引
AIの進展は半導体製造装置市場にとっても追い風です。半導体市場の中期的なリスクとして懸念されているのが、技術革新をけん引してきたスマホの性能競争が下火になることです。
しかし、より高性能な生成AIが誕生し、その処理を行うAI半導体がスマホに搭載されるようになれば、スマホの性能競争は今後も継続するとみられます。スマホに限らず、AIが半導体市場の技術革新をけん引していくことで、最先端の半導体製造装置の需要を拡大させることが期待されます。
(投資情報部 大坂 隼矢)