「公正な負担(フェア・シェア)」が2023年2月27日~3月2日の日程でスペイン・バルセロナで開催された世界最大のモバイル関連見本市「MWC2023(旧モバイル・ワールド・コングレス)」(注)の主要議題のひとつでした。「公正な負担」は、今後の欧州の通信網整備費用を、通信データを大量に使用するサービスを運営する米国を中心としたIT企業に求める、欧州の通信企業による要望のことです。要望自体は昨年から行われていますが、EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会がイベント直前の2月23日に「デジタル化の10年(Digital Decade)」計画の具体策の一つとして、公に「公正な負担」についての意見の募集を開始したことから現実味が増し、MWC2023の場で議論が白熱しました。

EUの「デジタル化の10年」計画の具体策
①ギガビット・インフラ法案︓費用負担軽減など
②ギガビット勧告案︓接続保証など
③意見公募(5月19日まで)︓「公正な負担」など

図は、米国IT大手5社と、米国メディア、日・米・欧の通信会社の株式時価総額です。ドイツの通信大手のCEOは、欧州の通信会社の時価総額は小さく、これは欧州の通信網を使って米IT・メディア企業が儲けている、つまりタダ乗りしているためだとの説明を行いました。そして、今後の5Gの普及や2030年頃の6Gへの切り替えの費用を、これら企業が負担すべきだと主張しました。スペインの通信大手は昨年、米IT・メディア企業を中心とするコンテンツ配信のための欧州通信企業のコスト負担は年間5兆円を超えたと説明し、フランスの通信大手は、欧州通信企業の半分弱は今後10年を生き残れないとコメントしました。

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欧州通信企業は、設備投資を行い通信データ量の増加に対応しましたが通信料はそれに見合うほど値上げ出来ず、さらに配当などの株主の要求にも応える必要がありました。「デジタル化の10年」計画で指数関数的に増加するデータ量への対応を求められ、今後の財源を「公正な負担」に求めた形です。一方、米動画配信大手は、通信会社の利益率は同社よりもはるかに高く、消費者は我々のコンテンツを視聴するために通信料を支払っているため、通信会社は十分恩恵を受けていると反論しました。

オランダ政府は2月27日に「公正な負担」についての意見公募を批判し、IT企業にネット使用料を課せばネットワークの公平性が損なわれ、値上げが起きる可能性があるとコメントしました。また、過去にEUが米ウェブ検索大手に制裁金を科した際には、同社のサービスの一部が停止されたことから、欧州の利用者が不利益を被ることも推察されます。

一方で、MWC2023で発表された「オープン・ゲートウェイ」は、業界の費用負担軽減につながる動きです。これは、アプリ開発などに使用される規格を共通化する通信会社のアライアンスで、日本の大手1社を含むグローバルの通信21社でスタートしました。通信網とおカネの問題は重要な局面にあると考えます。

(注)現在は「Mobile World Congress」の頭文字を取った略称の「MWC」が正式名。

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