投資家の皆様から関心の高い質問を専門分野のリサーチャーに聞いてみました!

Q:金融システム不安に陥る可能性は低いのか?

預金者が金融機関から預金を引き出したり、金融機関が取引相手の金融機関の信用リスクを懸念して金融取引を控えたりする形で、金融システム不安が生じる可能性が出てきました。欧米金融当局の対応は素早かったですが、不安材料はまだ残っています。例えば、(1)SNSの発展で過去に比べて、取り付け騒ぎの動きが急速に拡散しやすくなっています。また、(2)どんな銀行でも預金は全額保護されるという前例を作るとモラルハザードを生みかねません。さらに、(3)現在はインフレ・リスクが高く、中央銀行がインフレ抑制と金融システム不安回避のジレンマに陥りやすい状況下にあります。これらを踏まえても、「個別事象かつ当局の対応も十分なため、金融システム不安に陥る可能性は低い」と言えるのでしょうか、それともいったんは様子見姿勢にした方が良いのでしょうか。

A:現状、安心/危険の二者択一はできない

(1)SNSは情報伝達が早くなったというだけで、不安を加速させる悪材料だけでは無いと思います。悪事千里を走ると言われるように、良くない噂の方が広がりやすいのはその通りですが、十分な対応が行われた場合、安心感を素早く広めることにも貢献する面はあります。(2)預金全額保護がモラルハザードを生み出す可能性がありますので、米国でも平時から全面保護の議論には反対が多いとみられます。(3)中央銀行の使命は第1が物価の安定(米国では同時に雇用の最大化)になりますので、まずはインフレ、続いて、物価見通しに影響を及ぼす事象(景気後退、突発的な市場リスク)が基本になるとみられます。

質問の中心となる最後の問に関する答えですが、今の金融システムに関する評価は、現状見えるデータやニュースからの判断であり、隠れているものが100%無いとも言えないため、安心/危険の二者択一はできません。かつて、米国で住宅バブルが崩壊し、サブプライムローン(低信用の住宅ローン)に特化していた米ニューセンチュリー・フィナンシャルが2007年4月に破綻した時も、サブプライムは一部の借り手の問題と言われていました。それが、様々な証券化商品などに隠れて問題の所在が分からなくなり、デリバティブがレバレッジを掛けて影響を増幅させ、信用不安に拍車をかけて大混乱に陥いった歴史を、我々は(1年以上後の)2008年9月のリーマン・ショックという名称で覚えています。

そこから、事象に際しては(1)リスクの洗い出し(2)十分な対応を迅速に示す、が重要だということを学んでおり、現在は(1)のフェーズが残る部分があるということでしょう。(1)(2)がスムーズに進めば、良い例ではないかもしれませんが、2009年11月のドバイ・ショックのように、当時はそれなりに大きな信用問題とみられていたものが、時間が経過すると記憶が薄れてゆく事象になるかもしれません。

ちなみに、金融・銀行システムリスクの払しょくには、(A)カウンターパーティーリスクの軽減(取引業者間の信用確保)と(B)流動性の供給が施策の中心になります。伝統的な金融政策の政策金利の上げ下げは、(アナウンスメント効果以外に)直接的な意味は無いというのが一般的な考え方だと思います。3月のECB、FRBの対応がそのことを示しているとみられます。

市場リスクは常にどんな時でもあります。車の故障が怖いので自動車に乗らないとなると日常何もできなくなりますから、経済・リスク指標を見ながらリスク耐性に合った投資を行うことが肝心でしょう。

(野村證券投資情報部 小高 貴久)

ご投資にあたっての注意点