PBR1倍割れの処方箋

東京証券取引所からのメッセージ

東証プライム市場がスタートして1年が経過し、東証は3月末に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について(案)」を公表しました。これまでの、企業に資本コスト・資本収益性を意識した経営を求めることに加え、PBR(株価純資産倍率)などの市場評価の検証や、改善に向けた方針、具体的な取り組みを明らかにすることを求めています。

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抜群の説明力を有する ROE

ROE(自己資本利益率)とPBRの関係は密接です。TOPIXでは、ROEが7~8%よりも低い領域ではほとんどPBRが変化しないのに対し、7~8%を超える領域ではROEが高いほどPBRも高い傾向が顕著です。

個別企業レベルでのROEとPBRの関係

ただ、個別企業レベルではその関係はやや緩やかです。①そもそも市場が期待している約7~8%を超えるROEが実現できていない、②実現していても様々な要因により期待したPBRで評価されない企業が存在するためとみられます。

市場サイドからの 『処方箋』

低PBR企業のうち、ROEの水準が低い企業は、事業ポートフォリオの改善や株主還元などによりROEを向上させればPBRが上昇する可能性があります。  

一方、ROEが7~8%以上にもかかわらずPBRの水準が低い企業の場合には、株式市場より、①自己資本が毀損するリスク、あるいは②利益変動により自己資本の増殖率の見通しが不透明、と判断されている可能性があります。

4つの処方箋と ROEとPBRの関係性

今回は、自己資本の毀損リスクが低いと考えられる、①自己資本比率35%以上、②過去10期で自己資本が1度も減少したことがない、利益変動のリスクが低いと考えられる、③過去10期で赤字になったことがない、④来期(2023年度)増益の予想、といった条件をすべて満たした企業を抽出してみました(下図)。

これら、4条件をすべてを満たす企業を掛け合わせると、ROEとPBRの関係性は大幅に向上します。言い換えれば、これらの条件を満たした企業はほぼ適正価値で評価されているとみられます。  

逆にこれらの条件を満たさず、低PBRに留まっている企業は、現在満たしていない条件をクリアするための企業行動をとれば、市場での評価が断層的に高まる可能性があると考えられます。

業種全体が低PBRな理由 

最後に、今回は取り上げませんでしたが、鉄鋼や電力など、業種を構成する銘柄のほとんどでPBRが1倍割れ、という業種も数多く存在します。仮説の域を出ないものの、こうした業種では、CO2排出削減に代表される環境問題への対策が困難を極めるなど個々の企業では対処が難しいリスクを市場が意識している可能性があります。

(野村證券投資情報部 伊藤 高志)

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