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11/18 19:00
【週間ランキング】日本株の値上がり/値下がり銘柄は?(11月第3週)
※画像はイメージです。 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(上位) 2024年11月第3週(2024年11月8日~11月15日) 2024年11月月間(2024年10月31日~11月15日) 2024年年間(2023年12月29日~2024年11月15日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2024年11月15日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 日本主要銘柄・株価騰落率ランキング(下位) 2024年11月第3週(2024年11月8日~11月15日) 2024年11月月間(2024年10月31日~11月15日) 2024年年間(2023年12月29日~2024年11月15日) (注)対象はTOPIX500、直近値は2024年11月15日。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 <参考>今週の日本株式市場パフォーマンス 主要指数 TOPIX: 東証33業種 (注)業種分類は東証33業種ベース。直近値は2024年11月15日時点。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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11/18 16:45
【野村の夕解説】米国ハイテク株安を引き継ぎ、日経平均株価422円安(11/18)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 前週末の米国市場では、相次ぐ好調な経済指標の発表を受け、FRBによる利下げの鈍化懸念が浮上しました。米国長期金利は高止まりとなり、半導体株をはじめハイテク株の下落が重石となり主要3指数は揃って下落しました。その流れを引き継ぎ、本日の日経平均株価は前週末比383円安の38,259円で取引を開始しました。東京エレクトロンなどのハイテク株の下落や一時1米ドル=153円台まで進行する円高が重石となりました。10時過ぎに、植田日銀総裁が講演で今後の金融政策は「先行きの経済、物価、金融情勢次第だ」とコメントした事が伝わりました。12月の金融政策決定会合での追加利上げへの警戒が和らぎ、日経平均株価は下げ幅を縮小する場面もありました。しかし、その後は材料難で概ね38,200円台で膠着状態となり、前週末比422円安の38,220円で取引を終了しました。トランプ次期米大統領が厚生長官にロバート・ケネディ・ジュニア氏を起用すると発表したことで、米国保険行政への不透明感が高まり、世界的に医薬品株が下落しました。東証33業種別では、医薬品が前週末比ー3.64%と下落率のトップとなりました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時45分頃。ドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 本日、米国でシカゴ連銀グールズビー総裁の講演予定があります。米国金融政策についての発言が注目されます。 (野村證券投資情報部 神谷 和男) ご投資にあたっての注意点
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11/18 08:22
【野村の朝解説】ハイテク関連株中心に米国株は続落(11/18)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 15日の米国株式市場では、主要3指数が揃って続落しました。米国株は大統領・議会選挙の結果を受けて上昇基調を辿り、主要3指数は11日に最高値を記録しましたが、その後は冴えない展開が続いています。NYダウ、S&P500は12日以降、4営業日中3営業日で下落、ナスダック総合は4営業日連続で下落しています。パウエルFRB議長が14日の講演で「利下げを急ぐ必要はない」と発言したことを受けて、市場の利下げ観測が後退したことが足元で米国株の重石となっています。ただし、パウエル議長は米国景気の堅調推移を根拠に挙げていることから、市場では選挙結果を受けた「行き過ぎた期待の巻き戻し」との見方もあるようです。ドルは過半のG10通貨に対して下落し、対円では日本時間には156円台半ばで取引されていましたが、米国市場では一時154円近辺まで下落し、154円半ばまで戻して引けました。 相場の注目点 15日もボストン連銀のコリンズ総裁が「いずれ利下げペースを減速させる必要がある」と発言するなど、利下げペース減速に関してはFRB内でもコンセンサスが形成されつつある様子がうかがわれます。このため、12月のFOMCでは利下げ実施の有無と同時にFRBの政策金利見通しが注目を集めそうです。問題は、現時点ではトランプ政権の掲げる政策の影響を織り込むことができない点です。トランプ政権の政策は多分にインフレ的な要素を含んでいることから、市場では早晩利下げは打ち止めととの見方も浮上しています。この点を踏まえると、12月FOMCで思い切った見通し変更は示されない可能性が高いと考えられます。日本では与党と国民民主党の政策論議の行方が注目されます。国民民主党に対してどの程度譲歩するのかを含め、今後の政局の行方を占う上で石破首相の政権運営が市場の関心を集めそうです。 (野村證券 投資情報部 尾畑 秀一) (注)データは日本時間2024年11月18日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 野村オリジナル記事の配信スケジュール ご投資にあたっての注意点
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11/17 16:00
企業の農業参入と都市農業ビジネス - 曲がり角を迎える企業の農業参入と新たな参入機会 -
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 エグゼクティブ・ディレクター 佐藤 光泰(2024年11月8日) 1.曲がり角を迎えた企業の農業参入 企業の農業参入は、2003年の構造改革特区制度による「農地リース方式(企業が自治体経由で農地を賃借して農業を行う方式)」が一部エリアで解禁されて以降、急増した。2005年に同制度が全国ではじまり、その後、2009年には農地法が改正され、同制度に依ることのない企業の農業参入が全国で認められるようになった。IT化や効率化が遅れている農業セクターに注目する企業は業界を問わず多く、2003年以降、同方式による企業の農業参入数は一貫して増加し、2022年度末には過去最高の4,202法人となった(図表1)。 図表1 農地リース方式で農業参入した法人数累計の推移 (出所)農林水産省経営局データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 しかし、2023年度末の企業の農業参入数は4,121法人となり、2003年以降初めての前年比マイナスとなった。2023年の調査より集計方法が若干変更した影響があるかもしれないが、およそ20年に渡って企業の農業参入を調査・支援してきた筆者の肌感覚としても、前年比マイナスに特段の違和感はない。その要因は主に、「競争の激化」と「設備投資・運営コストの高止まり(による損益分岐点売上高の大幅上昇)」で説明がつく。前者は、これまで企業の農業参入が、運営効率の良い大規模施設園芸によるトマト栽培に集約する傾向が強く、新規参入が相次いだ影響で供給が過剰になりつつある面は否めない。これは栽培品目をはじめとするビジネスモデルの変更で対応可能であるが、問題は後者である。コロナ禍が終息した2022年以降の世界的な資源高などにより、設備投資・運営コストは目を疑うほどに高止まりしている。例えば、トマト栽培を行うための園芸施設への設備投資コスト(建屋と栽培設備を含む)は、15年前に10a(300坪)・1,000万円程度であったが、現在は同4,000~5,000万円に上昇している。また、エネルギー費や人件費、農薬・肥料・種苗費、物流費などの運営コストも軒並み上昇していることは周知のとおりである。 その一方で、トマトをはじめとする農産物の販売価格は15年前と比べて、品目により多少の上昇はあるものの、さほどの変化はみられない。つまり、売上高は大きく変わらないものの、総原価(原価+販管費)が急激に上昇している状況であり、事業継続が困難になりはじめている企業も少なくない。 撤退する企業の農業施設を譲り受ける「居抜き型」での参入は別としても、これまでの企業の農業参入の王道であった「地方で大規模園芸施設を新設する農業参入」は、ここにきて曲がり角の局面を迎えている。 2.今後の参入機会として都市農業ビジネスに注目 (1) 都市農業ビジネスの相対的に高い収益性と本業への副次的効果 このような環境の中、筆者は都市農業ビジネスに注目している。都市農業は、「市街地内の農地(都市計画法上の市街化区域[1]内にある生産緑地[2]など)、もしくはその周辺地域で行われる農業」を指す。 企業の農業参入として都市農業に注目する理由は2つある。一つ目は、産地と消費地が一体の都市農業では、相対的に収益性の高い農業ビジネスが実践可能な点である。都市農業が日本農業全体に占めるシェアは、農地面積では1.3%に過ぎないが、農家戸数では12.4%、販売金額では6.6%と小さくない。また、全国の農家(農業経営体)の平均販売高・耕作面積は年836万円・3.99haであるのに対し、都市農家(同)はそれぞれ443万円・0.4ha(4,360㎡)となっている。つまり、10aあたりの年間販売高は全国平均が20.9万円に対して都市農家は101.6万円であり、都市農家は全国平均のおよそ5倍の収益性を誇っている(図表2)。 図表2 都市農業の概況(全国平均との比較) (出所)農林水産省、全国農業会議所資料等より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 この背景には、ビジネスモデルの違いがある。全国の農家は稲作を中心とする農産物の販売を系統もしくは卸に依存するのに対して、都市農家は青果物を中心とする農産物や農産加工品、もしくは市民農園などの関連サービスを、自ら消費者や実需者へ直接販売・提供している。いわば「6次産業化」の実践である。それを実践できる最大の要因は、消費地に産地を有する「地の利」である。さらに、農業を専業として、かつ一定規模で事業を営む都市農家はそれほど多くなく、ビジネスの観点からみても競合環境は穏やかである。 都市農業のもう一つの注目理由は、都市農業の多面的な機能や役割を提供・享受することで、参入企業の社員や顧客へのシナジーが副次的に期待できる点である。都市農業は、消費地に近い利点を生かした新鮮な農産物を都市住民へ供給する機能だけでなく、都市住民への農業体験の場の提供のほか、災害に備えたオープンスペースの確保、「やすらぎ」や「潤い」といった緑地空間の提供など多様な役割を果たしている。国や自治体による都市農業の支援が手厚い理由として、このような都市農業の多面的な機能・役割がある。農業参入を検討する企業の多くは都市に本社を置く企業であり、従業員の多くは都市に居住し、また、本業における最終顧客の多くも都市の消費者であろう。そのため、参入企業が都市に農園を持つことで、従業員や都市の消費者との接点を通じたシナジーが期待される。従業員とのシナジーでは、プライベートで従業員同士が自然なかたちで交流できる場の提供を通じて、コロナ禍以降に定着した在宅ワークによるコミュニケーションの希薄化を補う効果などが期待できる。消費者とのシナジーでは、本業の製品やサービスにおける都市消費者へのマーケティングや販促の場としての活用だけでなく、日々の農園運営や定期的に開催する農園イベントなどを通じて、企業のミッション(会社の存在意義)やビジョン(会社の中長期目標)、バリュー(会社の価値観や行動指針)などを伝える場にもなるかもしれない。 これまでの企業の農業参入は、大半の従業員や最終顧客(都市消費者)からみると、「何となくやっている」認識はあるものの、それらに「実感」と「影響」を及ぼすものではない。従業員や最終顧客の日々の生活エリアに存在する都市農園を運営する企業への副次的効果は小さくない。 (2) 規制解除により都市農地の賃借件数と面積は増加中 それでは、都市で企業の農業参入が進まなかった要因は何か。主因の一つに、都市農地を代表する生産緑地の賃貸規制があった。生産緑地に指定されると、固定資産税の農地課税(本来は宅地並み課税)や相続税の納税猶予などの租税措置が適用される。ただし、その条件として、所有者による30年間の営農が義務付けられ、営農目的であっても、第三者への賃貸は認められていなかった[3]。しかし、いわゆる生産緑地の「2022年問題」[4]を背景に、「都市農地の賃借の円滑化に関する法律(都市農地賃借法)」が2018年9月に成立・施行し、生産緑地の所有者が第三者へ賃貸した場合でも、租税措置が継続されることとなった。 同法は奏功し、本来は2022年に営農期限を迎える生産緑地の所有者の大半は、同法に基づく10年の期限延長を選択したことで、懸念されていた生産緑地の「2022年問題」は顕在化しなかった。また、生産緑地の賃貸件数は同法施行以降、急増している。2018年度末の賃借件数(累計)44件に対して、2020年度末に292件、2022年度末には618件に拡大している。現状、生産緑地を賃借して都市農業を開始する新規就農者の大半は個人事業主(それに準する企業やNPO法人などを含む)と推察されるが、今後、前項の注目理由などから、中堅・大企業などへ徐々にすそ野が拡がりはじめるものと予想する。 図表3「都市農地賃借法」による賃貸件数の推移 (出所)農林水産省資料より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 3.都市農業ビジネスの要諦は消費者を対象とするサービス事業 都市農業のビジネスモデルは、事業内容と顧客でそれぞれ2つに分類できる。事業内容は農産物の生産・販売事業と市民農園/農園カフェ・レストランなどのサービス事業であり、顧客は小売・外食などの実需者向け(B2B)か消費者向け(B2C)かである。それらを組み合わせた合計4つの選択肢の中で、企業が都市農業ビジネスで採るべきモデルは、消費者を対象とするサービス事業である。 もちろん、農園から近い中小外食・小売事業者へ青果物を直送し成功している都市農家も大勢いる。しかし、卸売ビジネスは、「定時・定量」供給が基本であり、農業参入初期の生産力が伴わない段階ではリスクが高い。また、都市の立地を最大限に生かした高い付加価値(粗利)と、前章で述べた企業の副次的効果を得るには、都市住民を対象としたサービス事業が都市農業ビジネスのベースとなる。 サービス事業の軸は、都市の消費者へ多面的な機能と役割を提供できる市民農園が相応しい。市民農園は農家でない消費者が小さな面積の農地を利用して自家用の野菜や花を栽培する農園であり、欧州では「クラインガルテン(小さな庭)」と呼ばれ古くから存在する。日本では1989年の「特定農地貸付に関する農地法等の特例に関する法律」、1990年の「市民農園整備促進法」の施行以降、主に自治体や農協、一部の農家が中心となって開設され、2022年度末時点で、全国4,308の市民農園が運営されている。 市民農園は、住民のレクリエーション、高齢者の生きがいづくり、生徒・児童の体験学習などの多様な目的で利用されるが、特に、農業と触れ合う機会の少ない都市住民による需要は高い。農林水産省の調査によれば、2022年の市街化区域内(都市農地)の市民農園の応募倍率(応募区画数/募集区画数)は1.15倍と需要が供給を上回る。同じく東京都の2023年の調査では、島しょを含む東京都全域の応募倍率は1.4倍、東京都区部(23区)では1.8倍となっており、都市部になるほど需要が高くなる傾向にある。 都内の市民農園で有名な施設は、小田急グループが経営する「アグリス成城」である。小田急線・成城学園前駅から徒歩1分の場所に、約5,000㎡の敷地に307区画(約3.0~7.5㎡/区画)を備える。利用料金は区画の大きさで異なり、月5,745~15,175円である。自治体や農協が運営する地方の市民農園と比較すると決して安くないが、常に空きがないほど人気を博している。その秘訣は、立地もさることながら、主に充実した施設と充実した付加サービスにある。施設は休憩ができるラウンジやトイレ、シャワー、冷暖房を完備したクラブハウスがあり、ジム感覚で通う住民も少なくない。また、農具や農業資材(堆肥・農薬・種苗など)はすべて提供され、常駐の管理人による栽培指導・代行サービスもある。さらに、フラワーアレンジメントなどのカルチャースクールやイベントが定期的に開催されるなど、利用者を飽きさせない仕組みを構築している。 図表4 小田急グループが経営する都市型市民農園「アグリス成城」 (出所)アグリス成城HP このように市民農園自体の需要は都市で高いが、それに派生する有望なビジネス形態を2つ紹介したい。まず一つは、ユニバーサル農園である。農業の多面的な機能の一つに、農作業を通した疾病の予防やリハビリ、精神・肉体的な症状の治癒・緩和などがある。ユニバーサル農園は、このような機能を提供する目的で、「障がい者や高齢者、ひきこもり、触法者などの多属性の利用者のほか、子どもから高齢者までの多世代の利用者の様々な態様に配慮した受入可能な農園」である。障がい者などの多属性の住民は都市部に集まりやすいが、都市は社会復帰や症状の緩和を促す取り組みを提供できる場が少ない。農業参入を検討する企業が都市でユニバーサル農園を経営する意義は大きく、関連ビジネスはもちろん、SDGsの観点からも大義の立つ取り組みとなる。農林水産省では、農福連携対策として市民農園におけるユニバーサル農園の開設を支援し、それら整備における補助金(農山漁村振興交付金)で積極的に後押ししている。 もう一つのビジネス形態は、クロスセル(追加サービス)事業である。市民農園を通して利用者やエリア住民が常時来園する仕組みを構築することで、クロスセルの機会が生まれる。有望事業は、農園カフェ・レストラン事業である。生産緑地の固定資産税は農地課税のため、同じ市街地区域内にある宅地化農地[5]とは桁違いに低い。例えば、東京都世田谷区成城の成城学園前駅から徒歩10分にある生産緑地の相続税評価額(農業投資価格[6])は、隣接する宅地化農地の評価額(相続税路線価)の実に512分の1である[7]。生産緑地の賃借料は固定資産税をもとに計算するケースが多く、生産緑地以外の地目で経営する近隣のカフェやレストランと比較すると、賃料固定費は相対的に小さくなる。これまで、生産緑地内でこのような飲食施設を設置することはできなかったが、2017年6月の「都市緑地法等の一部を改正する法律(改正生産緑地法)」の施行により、生産緑地地区内で農産加工品の製造施設や直売施設、農家カフェ・レストランなどの飲食施設の設置が可能となった。賃料負担が小さいため、低い損益分岐点で飲食経営ができるだけでなく、食材調達をエリア内の幅広い農業者と連携することで、経済的利得をエリア内の都市農家にも分かち合える利点もある。 4.都市農業ビジネスの収支シミュレーションと事業ビジョンの肝要性 本稿の最後に、都市農業ビジネスの収支シミュレーションを行いたい。なお、当シミュレーションは、都市農業ビジネスの収支イメージを共有する目的で、様々な前提(仮定)を置いて、筆者が独自に推計したものである。実際には参入企業のビジネスモデルや立地、都市農地の賃借面積・条件、運営方法などにより、個々の収支は大きく異なる点に注意してほしい。 シミュレーションの主な前提として、都市農地は生産緑地とし、賃借する農園面積は300坪(1,000㎡)と仮定する。実施する事業は、①市民農園事業(500㎡:10㎡/区画×50区画)、②農園カフェ・レストラン事業(200㎡[8])とする。市民農園事業の月額利用料は、栽培代行などの付加サービス込みで月額利用料金を1万円、稼働率を9割、事業粗利益率を80%とおく。農園カフェ・レストラン事業は、農園内とエリア内で栽培された農産物などのブッフェ形式のメニューを軸[9]とし、席回転率を平日2回転、休日4回転、事業粗利益率を60%と置く。その他の主な前提は図表5の通りである。このような事業規模・内容の都市農園を、2年に一度、新たに開設していく事業展開を想定する。 図表5 都市農業ビジネスの収支シミュレーション(参考) (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部 上記シミュレーション結果をみて気づくのは、都市農業ビジネスは売上高や利益などの事業規模が限定的な点である。都市農業はまとまった農地を確保できず事業規模の制限を受ける。そのため、特定エリアに複数の農園を確保・運営する「ドミナント戦略」が基本となるが、それでも農業参入で5年後に売上高30億円、10年後に同100億円といった急速な事業展開を企図する企業には向かない。サービス事業が主体の都市農業といえども、農業ビジネスに変わりはなく、エリアに密着した「地に足のついた」事業運営が何より求められる。加速度的なビジネスモデルを採ると、必ずどこかにしわ寄せがいき、レピュテーションリスク(企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスク)を生む。新規事業として再生産可能な利益を残すことは大前提としつつも、都市農業ビジネスは、地域住民とのふれあいを通じた本業とのシナジーの発揮や、従業員(とその家族)のふれ合いの場の構築、ステークホルダーである最終顧客(都市住民)の憩いの場の提供など、都市農業が有する多面的な機能や価値に目を向けた企業に合致する。つまり、都市農業ビジネスを通して、企業として中長期に成し遂げるゴールやあるべき姿を明確にする「農業参入ビジョン」が、何よりも肝要となる。 [1] 都市計画の区域内で、既に市街地となっている区域と、およそ10年以内に優先的かつ 計画的に市街化を図ることになっている区域。 [2] 生産緑地法で定められた市街化区域内にある「保全すべき農地」であり、良好な生活環境の確保に効用があり、公共施設等の敷地として適している農地が生産緑地として指定される。都市農地の2割強を占める。 [3] 生産緑地の指定を受けて、営農期間30年内に賃貸もしくは売却(市街化区域内の農地転用は農業委員会の許可などは不要)した場合、固定資資産税は宅地並み課税となり、相続税の納税猶予は打ち切られる。農民運動全国連合会によると、東京都で1農家が受けている相続税の平均猶予税額は約2億2,000万円であり、納税猶予が打ち切られると、これに年3.6%の金利を加えた額が支払う合計納税金額となる。 [4] 1991年の改正生産緑地法により最初に生産緑地に指定されたのが1992年であり、30年間の営農期間が終了する2022年に多くの生産緑地が解除され、住宅地として大量供給されることで地価の暴落が懸念された問題(筆者レポート:「生産緑地の『2022年問題』と都市農業(2018年6月)参照」 野村アグリプランニング&アドバイザリー 生産緑地の「2022年問題」と都市農業 (PDF) (nomuraholdings.com)) [5] 市街化区域内にある生産緑地以外の農地 [6] 農地等が恒久的に農業の用に供されるとした場合に通常成立すると認められる取引価格として国税局長等が決定した価格をいい、相続税や贈与税を課税するときの財産を評価する基準である「財産評価基準」の一つに数えられる。 [7] 筆者レポート「生産緑地の『2022年問題』と都市農業(2018年6月)」の図表7参照(レポートURLは本稿P3の脚注4) [8] 「改正正生産緑地法(2017年6月)」では、生産緑地に設置できる飲食施設は全体面積の10分の2以下であることが定められている。 [9] 同法の飲食施設では、当該生産緑地またはエリア内(市区町村等)で生産された農産物等を原材料等に5割以上使用する必要がある。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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11/17 12:00
【銘柄特集】2024年10月IPO銘柄のパフォーマンスと11月IPO銘柄の紹介
2024年10月のIPO銘柄のパフォーマンスと、今後のIPOの予定を紹介します。 10月IPO銘柄のパフォーマンス 10月1日 上場シマダヤ(250A)市場区分:スタンダード事業内容:麺類及び関連食料品の製造及び販売 10月8日 上場ケイ・ウノ(259A)市場区分:名証ネクスト事業内容:ジュエリー・時計の製造販売、オーダーメイド、リフォーム、修理 10月11日 上場オルツ(260A)市場区分:グロース事業内容:デジタルクローンP.A.I.の開発を最終目的とした要素技術の研究開発とそれらを応用した製品群(Communication Intelligence「AI GIJIROKU」等)の展開、AIソリューションの提供 10月16日 上場日水コン(261A)市場区分:スタンダード事業内容:上下水道を中心とした水に関する建設コンサルティング 10月18日 上場インターメスティック(262A)市場区分:プライム事業内容:眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、サングラス等の製造販売及び輸出入眼鏡・コンタクトレンズのケース、クリーナーその他の眼鏡・コンタクトレンズ付属品の製造販売及び輸出入 10月21日 上場伸和ホールディングス(7118)市場区分:札証アンビシャス事業内容:飲食事業として「炭火居酒屋炎」、物販事業としてお持ち帰り専門店「美唄焼鳥・惣菜炎」の展開、冷凍加工食品の卸売 10月22日 上場Schoo(264A)市場区分:グロース事業内容:個人・法人向けオンライン動画学習サービスの提供 10月23日 上場東京地下鉄(9023)市場区分:プライム事業内容:1. 旅客鉄道事業の運営 2. 都市・生活創造事業の運営(・ 流通事業(駅構内店舗、商業施設の運営等)・ 不動産事業(オフィスビルの賃貸等)・ 情報通信事業(光ファイバーケーブルの賃貸等)) 10月25日 上場リガク・ホールディングス(268A)市場区分:プライム事業内容:X線技術等を用いた理科学機器の製造・販売 10月28日 上場Hmcomm(265A)市場区分:グロース事業内容:音声認識処理、異音検知・自然言語解析処理を用いたプロダクトの提供等 10月29日 上場Sapeet(269A)市場区分:グロース 事業内容:Expert AI を活用したAI プロダクト及びAI ソリューションの提供 (注)初値及び直近月末終値が公開価格に対して上回っているものは赤、下回っているものは青で表示。(出所)日本取引所グループのウェブサイト、各新規上場会社の有価証券届出書等公表情報を基に野村證券作成 11月IPO銘柄の紹介 11月22日 上場ガーデン(274A)市場区分:スタンダード事業内容:M&Aを活用した「壱角家」や「山下本気うどん」などの飲食事業 11月28日 上場ククレブ・アドバイザーズ(276A)市場区分:グロース事業内容:AIを活用したCRE(企業不動産)に関するソリューションの提供及び不動産テックシステムの開発・販売 2024年11月29日から12月5日のいずれかの日(上場日の4営業日前までに決定予定)グロービング(277A)市場区分:グロース事業内容:コンサルティングサービスを提供するコンサルティング事業及び各種SaaSを提供するクラウドプロダクト事業 11月29日 上場Terra Drone(278A)市場区分:グロース事業内容:測量・点検・農業等におけるドローンを含むハード・ソフトの開発及びサービスの提供、安全かつ効率的なドローンや空飛ぶクルマの運航を管理するためのシステム(UTM)の開発・提供 (注1)TOKYO PRO Marketの新規上場会社は含まれない。(注2)全てを網羅しているわけではない。(注3)11月のIPO銘柄は、11月5日時点での予定。(出所)日本取引所グループのウェブサイト、各新規上場会社の有価証券届出書等公表情報をもとに野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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11/17 09:00
【動画 3分チャート塾】シーズンⅡ:第5回 そもそもクロスはなぜ起きる?
「動画 3分チャート塾」は、株価チャートの見方を学びたい初心者から中級者の方向けの動画シリーズです。 今回は、クロスが起きる理由について説明しています。 シーズン I:意外と知らないローソク足(全8回)ローソク足の基本の読み方や中長期的な相場の捉え方などについてわかりやすく解説していきます。シーズンII:相場の見方の強い味方、移動平均線(全9回)移動平均線の基礎や活用法についてわかりやすく解説していきます。シーズンIII:上値、下値のメドを探ろう(全10回)上値、下値メドの探り方についてわかりやすく解説していきます。シーズンIV:相場の過熱感を測るには?(全9回)オシレーター系指標についてわかりやすく解説していきます。シーズンV:トレンドラインを引いてみよう(全9回)トレンドラインについてわかりやすく解説していきます。 ご投資にあたっての注意点
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11/16 16:00
需給に着目した食の地理的貿易構造変化のシナリオ
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部 担当部長兼コンサルティング・グループリーダー 益田 勝也(2024年11月8日作成) 1.豊かな食生活を求めて成長してきた食のグローバル取引 21世紀に入り、食のグローバル取引は急速に拡大してきた。食品分野における世界各国の輸出入の総額(以下、世界貿易額という)は、2000年に約9,000億米ドルだったのが2021年には約3.8兆米ドルと約20年間でおよそ4倍に拡大している。これは単純にその間の世界の人口が約1.3倍に増えた、つまり食料需要の量が増えただけでは説明できない高い伸びである(図表1左図)。 食品の消費額は、生活が豊かになるに従って伸びると言われている。食品の世界貿易額と一人当たりGDPとの関係をみると、ほぼ同じ曲線を描くことが分かる(図表1右図)。特に2000年から2010年にかけての10年間は、世界平均の一人当たりGDPが5,000米ドルから1万米ドルに倍増し、平均的な世界の消費者が食に豊かさを求める段階に突入した時代であった。この食の多様化需要を国内だけでは満たせない各国が、国外からの輸入に求めてきた状況が伺える。 図表1 左図:食品分野の世界貿易額(赤線)と世界人口(青線)との関係、右図:世界貿易額(赤線)と一人当たりGDP(青線)との関係 (出所)World Integrated Trade Solution(Value of Import and Export)、World bank(Population, GDP per capita)より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 地理的にみると、20世紀までは、米国や西欧などの先進国がハブになって、比較的近い地域と貿易する構造に限られていた。しかし21世紀に入ると世界の貿易は活発化し、米国は中南米に加えてアジア・太平洋地域の主要国と、西欧は東欧や南欧に加えて中南米やアジアとの貿易も増やしてきた(図表2)。 このように長距離の貿易が伸びた背景には幾つかの要因が考えられる。需要面では、世界の経済成長に伴い、輸入国が先進国からBRICsや東欧など中進国を主体とする世界全体に広がり、多極化した。輸出は食品の大量供給国に限られるため、その地理的ギャップから長距離輸送が必要になった。供給面では、食品以外を含む貿易量全体の拡大により国際物流ルートがグローバル船社によって様々な国で開発され、中小の国々でも貿易しやすくなったことがある。加えて新しい長期保冷技術の開発や、素早く届けられる航空貨物ネットワークの拡大が供給力を拡大させた。さらに政策面ではTPPやRCEPなど関税障壁撤廃に向けた動きが取られたことが背景となり、長距離の国の間での貿易を拡大させていった。 図表2 農産物の主な輸入国と輸出国(左図:1995-96年、右図:2012-13年) (出所)ジャンーポール・シャルヴェ「地図とデータで見る農業の世界ハンドブック」 2.今後の貿易動向を左右する視点 需要面をみる限り、今後も世界の食品貿易が拡大するトレンド全体は変わらないと筆者は考える。2030年までに世界の人口の50%以上が中間層となり、中間層の40%弱が中国とインドになると予測されている(図表3)。その結果、貿易量は増えるが、食料需要の内訳は変わっていく。これまでの貿易の主体は小麦や米などの炭水化物であったが、中間層の好む肉や魚、果物など生活に豊かさをもたらす食品の消費、貿易が増えていく。保冷技術はさらに進み、これまでは難しかった新鮮な野菜等の長距離輸送も増える可能性がある。 一方で、供給面では以下の制約条件が働く。 図表3 2030年までの世界の中間層人口の推移予測(左図)、及び中間層の総消費額(兆USD)とその全世界構成比(右図) (出所)Homi Kharas “THE UNPRECEDENTED EXPANSION OF THE GLOBAL MIDDLE CLASS AN UPDATE” (2017, Brooking) 第一の制約条件となるのは気候変動である。主にブラジルなどの中南米やアフリカ、東南アジアなど赤道から南北回帰線までの国での農業生産力が低下する一方で、ロシアやカナダ、ウクライナなど北緯の高い国で生産力が高まる(図表4)。その結果、新たな南北問題を生み、生産力が低下するそれらの国は国内需要を満たすため、食品の輸出を抑制する政策的動きが出てくる可能性が高い。しかしそれら供給制約が高まる国でも食に対する需要は高まるため、輸入を増やしていくだろう。 図表4 気候変動による穀物生産力の向上/下落地域の予測(2050年まで) (「緑」は生産力の5%以上増加、「オレンジ」は生産力の5%以上減少が見込まれる地域) (出所)National Geographic “https://www.nationalgeographic.com/climate-change/how-to-live-with-it/crops.html” 第二の制約条件は国際政治の緊張である。2010年代まではTPP等の関税障壁撤廃政が国際的にも進み、貿易の拡大を進めていたが、2020年代に入り国際緊張が高まるにつれ、政治的に関係が悪化したり対立する国の間での貿易が制限され、他国からの調達に切り替える動きが出てきている。中国と米国・アジア、EUとロシア、中東内部などで緊張関係が続く間は、常時必要な食品の輸出入先を他国へスイッチする可能性が高まる。次節では、上記の視点から主な輸出入国の動向を見ていく。 3.主要国の輸出入を取り巻く動きと今後の展開 本節では、農地が広大で近年輸出が拡大しているロシアとオーストラリア、食の輸入大国である中国、そして輸出大国である米国の四ヵ国について、輸出入の動向を詳しく見てみよう。 (1)ロシア ロシアは長い間食料の純輸入国であったが、2020年に純輸出国に転じた(図表5)。その典型的な分野が穀物であり、生産力を強化した結果、2011年に約6,000万トンであった小麦の生産量は2022年には1.5億トンまで伸びた。その結果、小麦の輸出量は直近年間5,000万トンまで拡大している。人口や中間層など国内需要の伸びが期待できない中、広大な農地を活かした外貨獲得を食品の海外輸出に求めている。 図表5 ロシアの食品の輸入及び輸出金額の推移(2011-2021年、単位:百万米ドル) (出所)World Integrated Trade Solution(以下、WITS)より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 図表6 ロシアの主な地域別輸出金額の推移(2011-2021年:単位百万米ドル) (出所)WITSより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 輸出地域をみると、トルコやイラン等の中東が最も多く、次いで中国・韓国をメインとする東アジア、カザフスタンやアゼルバイジャン等の中央アジア・コーカサス地域と続き、隣接するユーラシアの国々を広く対象としている(図表6)。エジプトやアルジェリアなどをメインとしたアフリカ諸国に対しては、2018年までは政治的覇権を強めたい国として輸出を伸ばしており、例えば小麦は約7割をアフリカ諸国に輸出していた。しかしアフリカへの輸出は近年減っており、直近では中東や中央アジア諸国での輸出を大きく伸ばしている。その背景には、ウクライナとの戦争で外貨を稼ぐ必要がある中で、より高値で買ってくれる所得の高い国や、軍事品の調達及び資源外交で友好な関係が築ける中東等の近隣国にシフトしたと考えられる。気候変動の影響を受け難いロシアは今後も戦略物資としての食品輸出を拡大していくが、その国は友好国に限られていくだろう。 (2)オーストラリア オーストラリアはCovid-19の影響で、2021年以降に食品輸出が大きく伸びた国の一つである。オーストラリアは人口が2,500万人と少ない一方で、広大な国土を活かした生産力は高く、これまでも食品産業は輸出で外貨を稼ぐ一翼を担ってきた。2022/23年度におけるオーストラリアの農産物の生産額は約930億米ドル、食品輸出額は約800億米ドルに達し、ともに過去最高額を記録した。主な輸出品目は小麦、油用種子等のバルク品に加えて、牛肉を中心とした肉製品、牛乳などの乳製品、青果、鮮魚などの消費者向け商品も輸出品の約半数を占めている(図表7)。 図表7 オーストラリアの食品の主要品目別輸出金額の推移(2007/08-2023/24年、単位:百万米ドル) (出所)WITSより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 小麦は主に中国、インドネシア、フィリピンに輸出しており、アジアの食料需要の伸びをオーストラリアが補完してきた。2016年以降にオーストラリアから小麦輸出が伸びている国をみると、中国や日本、東南アジア、南西アジアのアジアに限定される(図表8)。食品全体でみると中国や韓国、インドネシアへの輸出は2010年代前半から、ベトナムへの輸出は2020年以降に伸びている(図表9)。アジアの経済成長に即した需要増加に合わせ、近隣で貿易体制が築けている国への輸出を増やしている。温暖化の影響は大きくなく、アジア・太平洋地域での貿易自由化の動きの中で、将来的にも中国及びアジアへの輸出元となる国としての地位を高めていくものと思われる。 図表8 オーストラリアの小麦輸出量の増加国(2016-2022年) (グレーは減少、緑は増加、黄色はほぼ横ばい) (出所)OEC.worldより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 図表9 食品の主要国別輸出金額の推移(2003/04-2022/23年、単位:十億豪ドル) (出所)Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics and Sciences(ABARES), Snapshot of Australian Agriculture 2024 (3)中国 食品に関する2021年の貿易収支をみると、輸出額が約760億米ドルであるのに対し、輸入額は輸出額の約3倍の2,050億米ドルと大きく(図表10)、既に中国は世界最大の食品の純輸入国となっている。輸入が輸出を逆転したのは2009年であり、2013年までは小麦やとうもろこし、大豆などの穀物が輸入増加を牽引していたが、2010年代後半になると豚肉、牛肉、乳製品や果実などの消費者向け食品が大きく輸入を伸ばしている(図表11)。 図表10 中国の食品の輸入/輸出金額の推移(単位:百万米ドル) (出所)WITSより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 図表11 中国の食品輸入額の内訳(カテゴリ別:上図、消費者向け食品の内訳:下図) (注)Bulk:穀物、大豆、とうもろこしなど、Intermediate:パーム油、オイル、Consumer oriented (goods):消費者向け食品(出所)USDA 「International Agricultural Trade Report」(2020年9月) 所得の上昇に伴い、贅沢な食を求める消費者需要は年々高まっている。例えば豚肉の輸入元となる国は欧州や米州がメインであり、近年も伸びている。また、米国からの輸入品目をみても、近年伸びているのはとうもろこしに加えて、牛肉や鶏肉である(図表12)。 図表12 米国から中国への主要品目の輸出金額の推移(2016-2023年) (出所)U.S. Census trade dataより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 中国の食品輸入元となる国は、ブラジルと米国で約4割を占めるものの、カナダやアルゼンチンなど米州の国、オーストラリアやニュージーランドの豪州、タイやインドネシアなどの東南アジア、ロシアやウクライナ、欧州からも輸入しており、世界に分散している(図表13)。今後の中国は、人口は増加から減少に転じる一方で、生活水準の向上要求は今後も続き、肉や魚の輸入需要をより高めるであろう。その際、ブラジルや東南アジア等からの輸入は気候変動と当該国の国内需要の高まりで輸出を増やせないことから、カナダや豪州とともに、これまで少なかった欧州やロシアからの輸入を増やす輸入元となる国の多国化戦略を取ると思われる。さらに、ドナルド・トランプ大統領の返咲きによって貿易戦争が再燃すれば、二番目に多い米国からの輸入は縮小し、多くの国からの調達傾向はさらに強まるであろう。 図表13 中国の食品輸入の上位国(2021年) (出所)WITSより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (4)米国 米国の食品輸出額は、2005年の600億ドルから2022年には約1,800億ドルと約3倍にまで拡大し、世界の食品輸出大国となった。輸出先となる国を地域別にみると、アジアが750億ドルと最も多く、中南米が460億ドル、北米が310億ドルと続いている。それぞれの地域で輸出額を伸ばしているが、近年では人口や所得が伸びているアジアへの伸びが著しい(図表14)。 品目別でみると、大豆とトウモロコシがそれぞれ一位、二位となっているが、三位にナッツ、四位に豚肉と関連商品、五位に牛乳等の日常品、六位に牛肉と関連商品が入っており、近年それらは輸出額を伸ばしている。輸出先の所得水準の向上により、穀物から消費財向けに輸出の主体品目を変化させている(図表15)。 図表14 米国の食品輸出額の地域別内訳の推移(単位:十億米ドル) (出所)U.S. Census trade dataより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 図表15 米国の食品輸出額の主な品目、品目別輸出額の推移 (出所): U.S. Census Bureau Trade Data、USDA” United States Agricultural Export Yearbook” より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 日常品や加工品、青果などの生鮮品については、北米や中南米など鮮度が保てる近隣国への輸出を伸ばしており、特に気候変動で供給力が伸び悩む中南米への輸出は、今後も増えていくものと思われる。 中国への輸出をみると2005年頃から増え始め、今では全世界への輸出額に占める中国の割合が20%近くに達しており、米国にとってブラジルと肩を並べる最大の輸出先国となっている(図表16)。2018~2019年米中貿易戦争の時期は、大豆、トウモロコシ、グレイン・ソルガム等が追加関税の対象になったため大きく輸出額を減らしたが、2020年以降急回復し、それまで以上の輸出額となっている。このように中国が最大の輸出先国となっている現状において、ドナルド・トランプ大統領が政権を取り、米中貿易戦争を再燃させる可能性が高い。ただしそれは当政権が続く期間の一時的な影響に留まり、中国の食品需要の成長に呼応した輸出増加の傾向は、長期的には変わらないと思われる。 図表16 米国の中国向け食品輸出の推移 (左軸:金額:十億米ドル、右軸:総輸出額に占める中国への輸出の割合:%)(出所)U.S. Census trade dataより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 4.将来シナリオ(まとめ) 以上の分析より、グローバルな食の貿易構造は、以下のように変化すると想定する。 先ず需要面から見てみよう。一人当たりGDPはこれまでと同様のペースで、2029年までに世界の平均値は約16,000米ドルまで向上する。その中で、中進国が増える地域として有望なのは、東南アジア、中央アジア・コーカサス、中東、北アフリカ、南米などである(図表17)。2029年に北アフリカは5,000米ドル台、東南アジアは8,000 米ドル台、中央アジア・コーカサスや南米は10,000米ドル台に、一人当たりGDPの平均値が達する見通しで、これらの地域は一定量以上の人口増加も期待できる。中東は既に10,000米ドルを超えているがさらに16,000米ドルに達し、人口増加も進む。 中国とインドは10億人を超える人口で中間層が増えていくことが量として魅力的であり、世界の食の需要大国となる。但し、中国は人口減少時代に入ること、及びインドは2029年で一人当たりGDPが未だ4,000米ドル台に留まり肉や魚などの食品需要は一部の高所得者層に限られることを、それぞれ差し引いて考える必要がある。ブラジルも既に10,000米ドルを超えている魅力的な市場であるが、大きな人口増加が期待できない点を考慮した方が良い。ロシアも成長鈍化が濃厚であり、BRICs以外の中進国がこれからの輸入増加の牽引国になっていくであろう。 図表17 一人当たりGDPの推移と将来予測値、伸び率、人口の増加量(地域別及び主要国) (出所)IMFより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 次いで供給面に関しては、気候変動の影響で南北回帰線に挟まれる国での食品供給力は落ち、相対的に北米、豪州、ロシア、東欧等緯度の高い国からの食品輸出力が高まるだろう。とりわけ東南アジアやブラジル、インドなどでは自国の需要増に対応するために輸出力は低下していくことが考えられ、緯度の高い国の輸出競争力は相対的に高くなっていくと思われる。 三大供給地を個別に見ていくと、ロシアやウクライナは中国、インド、中東、CIS諸国、アフリカ等の近隣国への輸出を増やすだろう。豪州は中国や東南アジア、インドなど環太平洋地域への供給を増やす。米国は中南米やカナダなど米州での輸出を増やすと思われる。特に今後は穀物より生鮮品の輸出が増えるため、鮮度が保てる短距離国間の貿易が活発になる。その傾向は、上記の三大供給地の輸出傾向にも合致する。 以上を総括すると、世界の主要な食の貿易構造は、図表18のように変化するシナリオが考えられる。 図表18 食の貿易構造の変貌シナリオ(仮説) (出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 5.おわりに 長期的にみて世界の食品需給が逼迫していくことは否めない。その中で需要が増える中進国が、東アジアから中東にかけてのユーラシア大陸の地域に集まっていることは、興味深い事実である。このエリアへの輸出を増やすビジネスに商機があることはもちろん、このエリアでの食品供給力を高める人工的な生産環境下での農業・畜産業・酪農業・水産業の事業機会も大きい。但し、このエリアは宗教や歴史の違いにより食文化が国毎に異なるため、伸びる食品も国毎に異なるであろう。 本レポートではマクロの動向から大胆に仮説を示したが、今後は需要面の定量的な予測や、注目される地域における精緻な分析を加えていくなかで仮説を検証し、より精緻な仮説にしていきたいと考えている。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 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11/16 12:00
【注目トピック】日本株決算レビュー、踊り場から再加速の可能性を探る
※画像はイメージです。 日本:2024年7-9月期決算レビュー 2024年7-9月期の方向性がほぼ定まる 2024年7-9月期決算がほぼ固まりました。ラッセル野村Large Cap(除く金融)では、売上高が前年同期比+3.8%、営業利益は同+7.0%となった模様です。事前のコンセンサス予想である、売上高で同+3.6%、営業利益で同+3.2%をいずれも上回って着地しました。 7-9月期は生産活動が踊り場であったことに加え、為替も円高気味で推移したことから、増収率は前四半期より低下しました。ただ、前年度より引き続き、コスト増を自らの製品・サービス価格に転嫁する動きは続いており、増収率に比べて比較的高い営業増益率を確保することができました。 ただ、経常利益は同-9.2%と減益となりました。ラッセル野村Large Cap(除く金融)の経常利益が減益となるのは、2022年10-12月期以来となります。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注1)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の四半期・増収率および営業増益率、経常増益率の推移。(注2)2024年4-6月期までは実績値、2024年7-9月期は、2024年11月12日までに決算発表を終えた企業を対象にしている。(注3)2022年7-9月期以降はソフトバンクグループを集計から除外している。2024年1-3月期以降はさらに公益セクターに属する企業を除外している。(出所)QUICKなどより野村證券投資情報部作成 業績は製造業中心に踊り場感が 業種レベルでは、2024年7-9月期は決算シーズン入り前には(下図、上)、①中国のデフレ輸出の影響から素材業種で減益となるものの、②生成AIやスマホの回復などから機械や電機・精密が業績をけん引する。③コスト増の影響が大きい内需・サービス業種はやや苦しい、展開が見込まれていました。 実際には、①素材業種では中国のデフレ輸出の影響は意外に軽微であったものの、②自動車が型式認証不正や米国でのインセンティブ増加の影響などから大幅な減益要因となりました。一方、③内需・サービス業種では想定以上に価格転嫁が順調に進んだ結果、薄く広く全体の営業増益に寄与しました(下図、下)。 2023年年央以降、我が国の業績のモメンタムは、製造業/非製造業問わずほぼ全業種で強く、業績のけん引役が一部業種に限られる欧米とは一線を画してきました。ただ、今回の決算では、主力製造業の業況観に格差が生じているとも見えることから今後の展開が気になるところです。 (注)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の2024年7-9月期営業利益の業種別増減益寄与額。上段は、2024年9月末時点の市場コンセンサス予想で、コンセンサス予想が存在している企業のみ集計している。下段は、実績値で、2024年11月12日までに決算発表を終えた企業を集計している。数値はいずれも、実際の営業利益およびその増減額を、ラッセル野村Large Cap(除く金融)の前年同期営業利益総額を100として指数化している。(出所)野村證券投資情報部作成 製造業の今後の業績の方向性は? 製造業の2024年7-9月期が不本意な結果となった理由としては、製造業の業績に影響が大きい、為替と生産がともに業績ドライバーとして機能しなかったことに尽きるでしょう。7-9月期は、米ドル円レートが前年同期に対して1.5円/米ドル程度円高(期中平均)、鉱工業生産は前年同期比-1.3%となりました。 ただ、生産活動については今後2024年度下期以降、急速に回復感を強めてゆくことが予想されており、今回の決算を契機に製造業が業績のけん引役から滑り落ちる公算は小さいと考えられます。 (注1)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の営業増益率の四半期の推移。2024年4-6月期までは実績値、2024年7-9月期は、2024年11月12日までに決算発表を終えた企業を対象にしている。2024年10-12月期以降はマクロ前提による試算値で、為替は145円/米ドル、鉱工業生産は2024年10月9日時点の野村證券経済調査部による予想、その他の要因は考慮していない。(注2)積み上げグラフは、営業増益率を、生産要因、為替要因、その他(残差)に分解したもの。1%の生産増加で4%、1円/米ドルの円安で0.4%弱、営業利益が増加すると仮定している。その他(残差)には、マージンの改善、イレギュラーなコストの発生に伴う利益変動、などの要因が含まれる。(出所)野村證券投資情報部作成 なぜ経常減益となった? 2024年7-9月期は、ラッセル野村Large Cap(除く金融)で営業外収支が前年同期の+1.3兆円から、-0.7兆円へと悪化し、経常減益となりました。営業外収支悪化の主な要因は以下のとおりです。 【円高】‥米ドル円レート(期末値)が、前四半期比で19円/米ドル、前年同期比で6円/米ドル円高が進んだため、海外での取引や資産の比率が高い、自動車など主力製造業で為替にかかわる多額の評価損・差損が発生しました。小売りや、ソフトウエア、住宅・不動産でも海外での事業ウエイトが高い企業で同様の傾向が見られました。 【燃料費調整】‥公益産業で燃料費等調整制度の期ずれにより営業外収支が大きく悪化しました。 【構造改革】‥一部企業で構造改革やリストラにともなう損失が発生しています。 このように、営業外収支の悪化の要因は、そのほとんどがキャッシュ・アウトフローを伴うものではなく、同時に一過性のものと考えられます。特に為替にかかわる部分は、今後150円/米ドル程度で推移すれば、2024年度通期業績への影響はほぼ消滅すると考えられます。日本企業の業績モメンタムが大きく変質した可能性は低いと見られます。 (注)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の営業外収支を2023年7-9月期と2024年7-9月期とで比較し、その変化幅に対する業種ごとの寄与額を示している。2024年11月12日までに決算発表を終えた企業を対象にしている。(出所)野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 伊藤 高志) ご投資にあたっての注意点
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11/16 09:00
【オピニオン】米国IT大手の業績はAI関連を中心に堅調
※画像はイメージです。 下の表は、米国IT大手5社の2024年7-9月期決算のポイントです。売上高とEPS(調整後1株当たり純利益)は各社とも市場予想を上回り、また、前年同期比で成長しました。 (注)EPSは調整後希薄化後1株当たり純利益。決算のポイントの灰色の文字はネガティブな内容。決算のポイントは全てを網羅している訳ではない。(出所)会社資料、ウルフ・リサーチ社、LSEGより野村證券投資情報部作成 決算発表翌営業日の株価は、アルファベットと、アマゾン・ドットコム(以下、アマゾン)は上昇しました。一方で、設備投資額の「著しい増加」をコメントしたメタ・プラットフォームズ(以下、メタ)や、24年10-12月期見通しが低調で25年の純利益市場予想が低下したアップル、マイクロソフトは下落しました。 主な決算のポイントは下記と考えています。 ① AIの活用で広告・クラウド事業での収益が増加② AI関連の需要に供給能力が追い付いていない③ 設備投資額の予想が従来より増加 インターネット広告は堅調でした。アルファベットは、主力のグーグル検索広告、YouTubeが好調だったとコメントしました。メタも、中国での広告出稿が回復するなどグローバルでSNS広告が好調でした。AI活用による利便性の向上が寄与したとともに、グローバルでのサービス業の好景気が反映されたと考えられます。 AI・クラウド事業も堅調でした。アルファベットは、グーグル・クラウドのAIインフラや生成AIに対する需要が堅調だったとコメントしました。アマゾンもクラウド事業「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」の需要が供給能力を上回る状況でした。マイクロソフトのクラウド事業「アジュール」は実績が堅調だった一方で、半導体の調達が制約となり24年10-12月期は増収率は低下するとの見通しが示されました。 AI・クラウド事業の供給能力不足は、エヌビディアの新型AI向け半導体「ブラックウェル」の量産が設計上の問題で遅延したことが背景にあると考えられます。一方で、アップルを除くAI・クラウド大手の4社は設備投資額の増額をコメントし、AI事業拡大の方針に変更がないことを示唆しました。 アップルの24年10-12月期売上高見通しは市場予想を下回りました。同社のAIサービス「アップル・インテリジェンス」の性能を見極めるまで、消費者がiPhoneなどの買い替えを控えたためと考えられます。 AIの普及は、一部で後ずれしたものの、おおむね順調に拡大していると企業業績からは見て取れます。 (注)予想の「決算発表前」は2024年10月1日時点、「決算発表後」は2024年11月7日時点。予想はLSEG集計による市場予想平均。矢印は変化の方向性。(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点