ボランタリークレジットの品質管理に事業機会を見出すIT(情報技術)企業に注目している。

ボランタリークレジットとは、温室効果ガスの削減プロジェクトに基づく民間主体のカーボンクレジットのことである。J- クレジット等の政府主体のクレジットと並んで、カーボンニュートラルの達成に向けたオフセットに活用されている。

ボランタリークレジットは、複数の関係者による品質要件の厳正な審査を経て発行される。品質要件には、クレジットの基になるプロジェクトの進捗状況を追跡できるトレーサビリティや、いつでも、誰でも進捗状況を把握できる透明性、クレジットの二重計上の防止等がある。二重計上とは、同じプロジェクトから違う種類のクレジットを発行する二重発行、クレジットの購入者がオフセットに利用しても販売者がオフセット分を排出量に足し戻さない二重訴求、同じクレジットを複数回活用して排出量を削減する二重活用である。

IT 企業は、品質要件の適否を審査する関係者を支援するシステムの開発・販売を通じて、ボランタリークレジット市場へ参入できよう。

ボランタリークレジットの審査では、発行手続きや、審査を担う関係者間の情報連携を効率化するシステムが求められている。現在、発行手続きや情報連携は紙の書類でやり取りされる場面が多く、審査期間の長期化に繋がっていた。デジタル化により、発行プロセスの効率化が期待される。

ブロックチェーンにプロジェクトの温室効果ガス削減効果や進捗状況、クレジットの発行履歴や売買履歴、活用履歴を記録することで、クレジットを巡る情報の改ざんを防止できる。また、いつでも、誰でもブロックチェーンを参照できるように設計すれば、プロジェクトのトレーサビリティや透明性を確保できよう。更に、ブロックチェーンによってクレジットを巡る情報の因果関係や整合性が保証されるため、二重計上を防止できる。

カーボンニュートラル達成を掲げる企業の間でボランタリークレジットの活用が増える中、品質の高いクレジットが安定して供給される環境が求められている。高品質クレジットの安定供給に資するIT 企業のシステム開発を注視したい。

(野村證券フロンティア・リサーチ部 長谷川 哲也)

※野村週報 2023年5月22日号「新産業の潮流」より

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