世界的なカーボンニュートラル(以下、CN)の実現に向けた取り組みに加え、エネルギー安全保障に対する意識が高まり、水素が注目を集めている。

IEA(国際エネルギー機関)によると、2030年の世界の水素需要量は21年比22%増の1億1,500万トンに拡大する。しかし、現在生産される水素の多くは、化石燃料から生産されるグレー水素だ。CN 実現には、再エネ由来の電力で水を電気分解して得るグリーン水素への転換が必要だ。

こうした中、世界各国でグリーン水素を中心に、水素の製造や利用を支援する動きが活発化している。米国は23年6月に「国家クリーン水素戦略」を策定し、50年までに年間5,000万トンのグリーン水素の製造を目指す。

また、水素需要の拡大に向け、水素を二酸化炭素と合成して作る合成燃料の利用が注目される。合成燃料は人工的な原油とも呼ばれ、ガソリン等の代替として使えば、既存のインフラや内燃機関部品の利用が可能となる。EUは、グリーン水素から作られる合成燃料「e-fuel」を使う場合に限り、35年以降も内燃機関車の販売を認めた。

一方、グリーン水素は、化石燃料に比べて製造コストの高さが普及に向けた障壁の1つとなっている。主要国の政策がグリーン水素ビジネスの規模の拡大とそれによるコスト低下に寄与することが期待される。

グリーン水素の需要拡大に備え、企業も対応を始めている。例えば、製造装置の中核部材で高い世界シェアを持つ東レは、23年に同部材のドイツ工場の生産能力を現在の3倍に引き上げる。グリーン水素の製造や利用に関連するビジネスを手掛ける企業の動向に注目したい。

(野村證券投資情報部 岩崎 裕美)

※野村週報 2023年9月11日号「投資の参考」より

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