日本:2023年1-3月期決算レビュー
1-3月期決算出そろう
2023年1-3月期決算がほぼ出そろいました。ラッセル野村Large Cap(除く金融)の増収率は前年同期比12.5%、営業増益率は同21.6%となっています。ともに事前の市場コンセンサス予想をやや上回りました。
ここ数四半期は、増収率が高いにもかかわらず営業増益にほとんどつながらない状態が続いてきました。原油に代表される原材料価格や、サービス価格、人件費の上昇に起因するコスト増の価格転嫁が遅れていたためと見られます。
1-3月期は、こうしたコスト増の勢いも若干弱まり、一部の品目では価格も反転下落していたため企業の交易条件が改善し、相対的に高い営業増益率となりました。
なお、経常利益(税前利益)段階では、減損、構造改善費用など一過性の費用を一部企業が計上したため増益率は低めとなっています。
※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。
会社見通しは微減益からのスタート
市場の注目度が高い期初時点での会社見通しは、5月15日時点で-1.9%(前年度比)となっています。
過去の傾向を見てみると、今年度と同様に多くの場合、3月調査の日銀短観の見通しを、期初の会社見通しが上回っています。これは、日銀短観の見通しは、デフレ圧力が強く、潜在成長率の低い国内単体を集計対象にしているのに対し、期初時点の会社側見通しはそうしたデフレ圧力がほとんどなく成長率も高い海外法人も含んだ連結ベースで公表されているため、と考えられます。
なお1年後に明らかになる実績値は、2011年度の東日本大震災やタイの大洪水、2019年度の(期末に本格化した)コロナ禍、などに代表される想定外の事態とならない限り、期初の会社側見通しを上回って着地する傾向が強く見て取れます。企業によってもばらつきはあるものの全体としては、『会社予想は保守的』な傾向は確かなようです。
2020年以来のV字型回復が
新年度会社見通しの発表を受け、アナリストによる業績予想の見直しも進んでいます。現時点で2023年度は、ラッセル野村Large Cap(除く金融)で前年度比3.3%経常増益が見込まれています。なお、半期では上期が減益、下期に増益転換という予想となっています(いずれも前年同期比)。
通常、こうしたV字型の業績回復予想パターンは投資家から懐疑的にみられがちです。足元が諸々の理由で業績が冴えない状況下で、(予測精度の低い)将来には業績が底打ち反転する、という主張に対する同調者は限定的です。
ただ、今回はこうしたV字型回復の可能性は例外的に高いと考えています。すなわち、2023年10-12月以降に生産増となる主要因が、前年同期の自動車を中心としたサプライチェーンの混乱という(既に確定した)特殊な理由による生産減のため、2023年度下期から生産増となる予想の確度は通常時の予想とは比較にならないほど高い、と見られます。
会社側見通しが微減益からのスタートにもかかわらず、5月17日に日経平均株価が3万円台に到達したのには、こうした下期業績の透明性の高さも理由として指摘できるでしょう。
業種レベルの業績パターンは多様
2023年の日本の企業業績は全体としては通期微増益、上期減益、下期増益が見込まれます(いずれも前年同期比)。一方、業種別では上期/下期の業績パターンは様々です(下表参照)。
①期を通じて増益が見込まれる業種では安定した業績の推移を背景にした株主還元の充実などが市場の関心事に、②下期に増益転換する業種では業績回復のタイミングを探るモメンタム情報に市場の注目が集まるなど、業績パターンごとに株式市場の評価のポイントも多様化する可能性が高い、と考えられます。
(野村證券投資情報部 伊藤 高志)