7月25~26日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)は市場予想通り、0.25%ポイントの利上げを決定し、政策金利であるFF(フェデラル・ファンンド)レートの誘導目標を5.25-5.50%ヘ引き上げました。ほぼ市場予想通りであったため、市場の反応は限定的でした。前回6月のFOMCで示されたメンバーの政策金利見通しである、いわゆるドッツでは2023年末の政策金利の予測は5.50-5.75%(中央値5.625%)となっています。年内にあと1回、政策金利の引き上げが実施されるとの想定です。当面の注目点は、どのタイミングで追加利上げが決定されるのか、あるいは状況次第では利上げが終了するのか、です。
記者会見においてパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は「(追加利上げの可能性については)会合毎に政策を決定していく。9月会合まで2回の雇用統計と2回のCPIがある。今週末にはECI(雇用コスト指数)の公表も控えている。9月に利上げとなる可能性もあれば政策据え置きとなる可能性もある」と述べました。この意味では従来通り、「データ次第」とのスタンスを踏襲しています。FF金先市場では今年の利下げは既に織り込んでいませんので、FRBとの認知ギャップは解消しており、この点ではボラティリティー(変動性)の要因となる可能性は小さいと言えます。
パウエル議長のコメントで改めて注目したいのは「スタッフはもはやリセッションを予想していない」と述べていることです。その理由は何でしょうか︖NY連銀は1年後に米国経済がリセッションに陥る可能性の先行指標として「米国国債の10年物-3ヶ月物のイールドギャップ」を算出しています。直近判明分では、2024年6月にリセッション入りする確率は67.3%となっています。
未だ堅調な雇用市場、取り崩しているとはいえ家計の貯蓄が相当程度残っていること、ISMに代表される企業景況感は製造業は好不況の分岐点である50を下回っていますが、コロナ禍で抑制された「サービスの挽回活動」が顕在化しているためサービス業は50を維持していること・・・等がリセッション回避の要因として挙げられるでしょう。勿論、コミュニケーション戦略としての中央銀行の正当化バイアスも否定できないでしょう。しかし、見逃してならないのは、QE(量的緩和)の効果ではないでしょうか。現下、FRBは正常化に向けてQT(量的縮小)を粛々と進めていますが、償還した債券を再投資しない、というあくまで「自然減」で対応しています。つまり、市場で国債を売却しませんので、その分金利の上昇圧力が緩和します。
振り返ってみれば、オイルショック以来の今回の歴史的なインフレ加速の中でも、米国10年国債利回りのピークは昨年10月の4.3%ですので、金利水準が大幅に抑制されたと言えるでしょう。FRBは従来、「証券保有残高効果は大きい」との見解を示しています。「自然減」のスタンスを継続し、本来あるべき金利上昇分を打ち消している、との想定で考えれば、米国経済の「ソフトランディング」シナリオもあながち否定できないかもしれません。
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