医療・介護・福祉の同時改定

2024年は診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬の同時改定が予定されている。本稿では同時改定に関する厚生労働省の議論や企業の取組み、サブセクターへの影響などについて展望を述べたい。診療報酬改定は2年毎、介護及び障害福祉サービス報酬改定は3年毎の実施であり、6年に一度トリプル改定となる。

厚生労働省は24年度トリプル改定へ向けた第1回意見交換会(老健局及び保健局の共同事務局による有識者会議)を3月に開催した。今後は9月中に論点をまとめ(第1ラウンド)、10月以降に個別項目の評価を詰める(第2ラウンド)。全体改定率は12月後半の閣議決定を待つ。なお、これまでと異なる点として、診療報酬改定実施時期が従来の4月から24年は6月になることに注意が必要である。これはシステム変更など医療機関の業務負担増を考慮したものであり、薬価改定は例年通り4月に実施予定である。これまでに開催された報酬改定議論および経済財政諮問会議を踏まえて、次の点に注目する。

①医療介護提供体制の効率化:医療等従事者のタスクシェア、調剤業務の外部委託が促されている。業務効率化のためのICT(情報通信技術)投資や多職種連携を推進できるかが重要であろう。この点でアインホールディングスは継続的なICT 投資に加えて、他社の調剤業務を受託し新たな成長機会を見出す可能性がある。②薬剤自己負担、介護の応能負担率変更の検討:受診抑制や利用抑制リスクが高まろう。③少子化・こども政策拡充の財源として、診療報酬等が対象となるリスクがある。④介護の注目点は、a)ICT による効率化、b)要介護1等軽度の利用者向け報酬の適正化、c)ADL(日常生活動作)加算の充実、である。bは多くの事業者で利用者が減るリスクとなり、aのICT 投資、cの介護の質向上策と合わせて、大規模事業者の優位性が高まる可能性がある。cについて、目的特化型施設を展開するアンビスホールディングスやサンウェルズ、利用者や従事者向け機器を提供できるCYBERDYNEは強みを発揮できる可能性がある。⑤障害福祉分野は、障害者就労の充実策継続が見込まれ、LITALICOには引き続き追い風になろう。

GE使用促進策が見直される可能性

6月29日の社会保障審議会では、GE(後発医薬品)促進策について、現行の数量目標(23年度末までに全都道府県で80%以上)から、金額ベース等の観点を踏まえたものへ見直すことが示された。ただし、現時点で数量シェア80%を達成していない都道府県は、当面の目標として可能な限り早期に数量シェア80%達成を目指すとしている。22年3月時点では18都府県が未達成となっている。

GE 促進策が数量目標から金額目標へ変更された場合、業界や流通面では金額基準を満たすために高単価品の需要が高まり、低採算あるいは長期にわたって供給されて薬価が下がりきった製品の需要が減少する可能性がある。GE メーカーが高単価品や高採算品の売上構成比を拡大する好機となりうるが、限定出荷や出荷調整品目の解消に時間がかかっている現状では、機動的な製品ミックスの改善は容易ではない点に注意が必要である。厚労省「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」では、GEの安定供給確保、少量多品種構造を解消するために、共同開発の制限や高い製造能力と品質を有する企業への集約を促す声が上がっている。

7月26日の中央社会保険医療協議会総会では診療報酬の中で調剤をテーマとした議論が始まり、24年度改定の論点が示された。対人業務の評価を充実させる方向性が示された一方で、敷地内薬局に対する批判的な論調や大手門前薬局に対する評価の見直し継続を求める動きが見られた。野村では、調剤基本料や地域支援体制加算が一物多価となっている現状の見直しや、敷地内薬局の如何を問わず地域医療への貢献度を評価する報酬体系になることが本質的に必要であると考える。

厚労省では、改定対応作業の効率化を目指し24年度改定時に診療報酬改定DX(デジタルによる改革)の導入(データ標準化とクラウド化)および運用を目指している。診療報酬改定DX は、電子カルテやレセコン(診療報酬明細書を作成するコンピューター)のマスタ統一を通じて、統合的医療情報システム構築の加速につながる。医療情報システムを手掛けるEMシステムズ、PHCホールディングス傘下のウィーメックス、メドレー等にとっては好機である。エムスリーの医療機関DXにおけるM3デジカル拡販にもつながろう。また、ソラストは医療事務の受託時期が平準化し、全社的な受注機会の増加につながる可能性がある。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 繁村 京一郎)

※野村週報 2023年9月4日号「産業界」より

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