
米国金融政策プレビュー
米国の利上げ局面は最終盤へ
FRB(米連邦準備理事会)は9月19日~20日にFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催します。市場では2022年3月に始まった今回の利上げ局面もいよいよ最終局面に入っているとの見方が高まっています。
今後の金融政策運営に対するFRBの姿勢を確認し得る機会として、8月25日に行われたジャクソンホール会合でのパウエル議長の講演が注目を集めました。パウエル議長は「インフレ率は高すぎる」との見方を示した上で、「適切だと判断すれば追加利上げの用意がある」、インフレが目標に向かって低下していくと確信が持てるまでは「景気抑制的な水準に政策金利を据え置く」との見解を示しました。
市場では、政策金利は年内据え置き、2024年前半のうちに利下げ開始が織り込まれていましたが、パウエル議長の発言を受けて年内1回程度の追加利上げが意識されているほか、利下げ開始時期も2024年半ば以降との見方が高まっています。

9月FOMC会合のチェックポイント
6月FOMC時点でのFOMC参加メンバーの政策金利見通しの分布図(ドットチャート)を見ると、18名中12名が23年中に0.5%ポイント以上の利上げを予想していたことが確認できます。FRBは7月会合で0.25%ポイントの利上げを行いました。各メンバーの政策金利見通しに変更がなければ、年内0.25%ポイントの追加利上げへのハードルは低いと考えられます。

24年に関しては4.625%までの利下げ、あるいは年間に1.0%ポイントの利下げ予想が中央値、16名は程度の差こそあれ利下げを予想していたと見受けられます。このため、23年中にしっかりと利上げしてインフレを抑制したうえで、24年は利下げに転じるとのシナリオがFOMC内でのコンセンサスであったと見受けられます。
9月FOMC会合では、23年中の追加利上げ実施の可能性よりも、24年の利下げ開始時期や利下げ幅の見通し変更がより市場の注目を集めると想定されます。利上げ打ち止め後も長期に亘り政策金利を据え置くとの見通しが示された場合、市場では長期金利上昇・株安との反応が予想されます。
「データに基づく政策判断」の意味とは
パウエル議長は「今後の会合では入手するデータと変化する見通し、そしてリスクを精査しつつ、慎重に政策を進めていく」との見解を繰り返しています。このような「データ重視」の姿勢はFRBの政策運営にどのような影響を与えると考えられるでしょうか。
通常、金融政策が効果を発揮するまでには半年から1年程度の時間を要します。このため、金融政策は1年から2年程度先の経済予測に基づいて判断すると考えるのが一般的です。
入手可能なデータは文字通り過ぎ去った「過去のもの」です。このため「データ重視」の姿勢は、予測重視の政策姿勢に比べて、対応が遅くなるリスクがあります。
野村證券では、FRBの利上げは23年7月会合を最後に据え置きに転じ、2024年3月会合より利下げを開始、24年末には政策金利を3.50-3.75%へ引き下げると予想しています。
この背景には、米国の実質GDP成長率は23年10-12月期以降、2四半期連続でマイナス成長となり、米国は景気後退に陥る中で、インフレ率はFRBが予想する以上に速やかに鎮静化すると予想している点があります。
9月FOMCに向けインフレ動向に注目
9月FOMCに向けて、ドットチャート下方修正の可能性を探る上では、インフレ率が6月時点の見通しと比べてどの程度低下する可能性があるか、が注目されます。FRBがインフレ指標としているコアPCE(個人消費支出)デフレーターでは、前月比+0.3%ペースで23年末のFRB見通し(前年比+3.7-4.2%)、前月比+0.23%ペースで24年末見通し(同+2.5-3.1%)を達成することができます。


7月のコアPCEデフレーター(除く食品・エネルギー)は前年比+4.2%と6月(同+4.1%)から加速したものの、前月比は2ヶ月連続で+0.2%にとどまりました。
9月FOMCまでには8月のCPI(消費者物価) が発表されています。コアCPIも2ヶ月連続で前月比+0.2%で推移しています。8月もインフレがFRB見通しを下回って推移していることが確認できれば、24年の政策金利見通し上方修正の可能性は低下すると考えられます。
(野村證券投資情報部 尾畑 秀一)