米国証券取引委員会(SEC)は2020年11月に、米国企業が、ギグワーカーに対して、ストック・オプション等の株式報酬プランを提供することを容認する規制改革案(株式報酬規則案)を公表した。ギグワーカーとは一般に、インターネット上のプラットフォームを介して業務を請け負う労働者のことであり、多くは企業に属さないフリーランサーや個人事業主である。
ギグワーカーは、プラットフォーム企業との契約関係にある一方で、いわゆる従業員ではないため、同企業の株式報酬プランに参加することはできない。株式報酬規則案はこの状況を打破しようとするもので、ギグワーカーも企業の成長の果実を享受できるようにすることを目的としている。
株式報酬規則案は、株式報酬プランに参加できるギグワーカーの条件や、プラットフォーム企業が遵守すべき株式報酬プランの発行額等に関する要件、プラットフォーム企業に求められるSECへの開示事項等を定めている。
企業が実際、ギグワーカーに株式報酬プランを提供するには、効率的な管理などを支援する存在が欠かせない。この点、米国では、株式報酬プラン関連のサービス提供が発展しており、新規参入者への注目度も高まっている。例えば、ユニコーン企業として著名なカルタ(Carta)は、スタートアップ企業の従業員が保有する株式報酬プランの管理を簡素化するサービスを提供している。ギグワーカーが株式報酬プランに参加できるようになった場合、カルタのようなサービス提供者の活躍が期待される。
株式報酬規則案は、21年1月の米政権交代前に提出された提案だが、ギグワーカーに対する経済的なインセンティブの付与の促進を意図しており、ジョー・バイデン政権が目指すステークホルダー資本主義の実現と整合的な部分がある。バイデン政権下のSECが株式報酬規則案を採択したり、考え方を継承したりする可能性はあろう。
近年、日本においても、雇用形態は多様化し、ギグワーカーの存在感は増大している。新型コロナ後の時代に向けて、雇用や報酬の在り方を見直す必要性も高まっていくであろう。ギグワーカーを株式報酬プランに参加可能にするという米国の発想は、日本においても参考にする余地があると言えよう。
(岡田 功太)
※野村週報2021年5月24日号「資本市場の話題」より