IT(情報技術)を駆使して営業活動を効率化するソフトウェアはセールステックと総称される。その新分野として、セールスイネーブルメント・ソフトウェアが登場している。

セールスイネーブルメントとは、営業人材の育成を通じて営業組織の強化を図り、成果に繋げる取組みを指す。

一般に、企業は社内研修や社外の営業コンサルタントを通じて営業人材を育成しているが、営業成果の底上げに至らない場合もある。そもそも、顧客へのコンタクトや提案、成約、フォローアップといった営業活動の段階ごとに求められる能力は異なる。営業成果を底上げするためには、各営業担当者の性格や経験に応じた最適なトレーニングメニューを最適なタイミングで提示する必要があり、自動化が難しかった。

そのような中、セールスイネーブルメントを体系化したうえで、IT を駆使してソフトウェア化する営業コンサルティング会社が現れている。セールスイネーブルメント・ソフトウェアは、各営業担当者の性格や経験を定量化したうえで、業務終了後に回収するアンケート結果と、可視化した顧客ごとの営業活動状況を分析する。そして、個々人にとって最適なメニューを自動生成する。トレーニング受講状況、アンケート結果、営業活動状況は継続的に分析され、個々人の営業成果が向上するまでメニューが更新される。

セールスイネーブルメント・ソフトウェアには普及段階にあるが故の課題がある。一般に、同ソフトウェアは、特定業界向けではなく汎用性の高い設計になる傾向がある。そのため、導入企業の業界属性によっては、導入後の営業成果に格差が生じる可能性がある。また、セールスイネーブルメントは海外で生まれ、発展してきた概念のため、日本固有の商慣習等を踏まえた設計とはなっていない可能性もある。日本発のソフトウェアが日本企業の期待する営業成果向上を達成できるか、検証が待たれる。

顧客ごとに営業活動状況を可視化できるセールステックを導入していても、営業組織の強化では人手をかけている日本企業は多い。日本の業界構造や商慣習等を踏まえたセールスイネーブルメント・ソフトウェアは、現在の営業組織に課題を抱く企業から高い支持を得られよう。

(野村證券フロンティア・リサーチ部 長谷川 哲也)

※野村週報 2023年10月2日号「新産業の潮流」より

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