東京の優位性が高まっている

欧米ではインフレ抑制の為の金融引き締めが続き、不動産市況が悪化を続けている。中国の不動産市況も長期低迷が予想され、堅調に推移する東京の不動産は実物投資の対象として注目が高まっている。

東京のオフィス賃貸市場では、リオープニングで出社率が回復し、オフィス賃貸需要が1~9月の実績で年率2.8%増加した。新規ビルの供給が2023年秋以降減少してくることから、空室率改善への期待が高まる。23年内に新たに完成する大型ビルは、東急不動産ホールディングスが開発する「渋谷サクラステージ」のみとなったが、テナント内定率は90%を超えている。

米国主要都市ではリモートワークの定着でオフィス空室率が20%程度で推移し、オフィス不要論が残る。東京の空室率の改善を通じて米国との違いが再認識され、日本不動産株への外国人投資家の見方が改善することになるだろう。

また、空室率が期待通り改善すると、オフィス賃料の改善期待を通じて、不動産投資のインフレ耐性の強さを投資家に想起させることになり、不動産株へ好影響をもたらすことになろう。

なお、25年にオフィスビルの新規供給量は再び増加に転じる見通しであり、二次空室リスクも含めて楽観はできない。だが、KDDI やホンダが25年竣工予定のビルへの本社移転を公表しており、同年竣工予定ビルのリーシングも進捗を始めている。

他方、13年以来続いてきた超金融緩和策が徐々に修正・変更され、正常化にむかっていることを懸念する投資家もいよう。金利上昇が不動産投資の魅力を減退させ、不動産市況に悪影響を与える可能性がある上に、資本集約的な不動産業は、有利子負債が多く、金利上昇が利払いの増加につながると考えるためだろう。

しかし、金融政策の正常化は経済回復が前提となる。経済回復は東京の不動産市況にも好影響を与える上に、多くの大手不動産会社は借入金を長期化、金利の固定化をはかっており、金利の上昇が金融収支の大幅の悪化となって短期業績に顕れてくることはないだろう。長短金利操作付き・量的質的金融緩和策が修正されても、日本の不動産市場への影響は限定的だろう。

不動産の含み益の有効活用

大手デベロッパーの経営戦略を見ると利益成長と資産・資本効率、そして株主還元の両立が引き続きの課題である。各社が保有する不動産には多大な含み益があるが、含み益を顕在化させ株主へ還元しないとの投資家の不満が一部にはあった。

不動産の継続的かつ戦略的な売却による売却益の計上で利益成長を牽引し、保有資産のポートフォリオの見直しで資産・資本効率を改善できれば、次の再開発プロジェクト資金と株主還元の原資を調達できる。

三井不動産は、年間の利益成長率7%、総還元性向45%を公約し、計画的に不動産を売却してきた。同社の特徴は、3.3兆円の含み益がある賃貸用不動産の他に、既に稼働中でいつでも売却できる状態にある販売用不動産を1兆円保持していることである。今後開発する賃貸用不動産として日本橋、八重洲、日比谷など大型プロジェクトを数多く抱えることから、資産の膨張を防ぎ資産効率を向上させるためにも、不動産の売却を続けていくと推察できる。

野村不動産ホールディングスは、保有する不動産のポートフォリオを聖域なく見直しながら、年率8%の利益成長、総還元性向40~50%の公約実現に向けて、不動産の売却益を顕在化させてきている。ただし、不動産の含み益が減少しないよう新たな開発事業に継続的に取り組み、含み益を増大させてきた点にも留意したい。

三菱地所は、地盤とする丸の内に立地する不動産は基本売却しない方針だが、丸の内以外にある不動産を売却しながら、30.3期を最終年度とする長期経営計画ではROE10%、EPS(一株当たり当期純利益)200円(23.3期実績は125.5円)の両立を目指す。米国の不動産市況の悪化で、一部の米国不動産の売却を延期したことなどで、24.3期は営業減益となる見通しだが、米金利の上昇がピークアウトしてくるようだと、利益成長スピードが高まろう。

住友不動産は、東京都心の不動産は売却しない方針で、賃貸利益と不動産の含み益を増大させており、その方針は変わらない。しかし、今後は開発スピードを上げることで、利益成長率の加速と資本効率の改善を目指す。不動産の含み益の増加要因は大別すると、不動産市況上昇による影響と自らが価値を創造した開発価値に分けられるが、価値創造力を磨く。

不動産株を見る上で、不動産の含み益は、コロナ禍において特に注目されてこなかった。しかし、今後は含み益の有効活用の進展で変化が生じよう。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 福島 大輔)

※野村週報 2023年10月23日号「産業界」より

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