24年4月から働き方改革の適用が始まる

建設業界では、2024年4月から残業時間の規制が始まる。他の産業に遅れて始まるかたちではあるが、これまで特別条項を結べば残業の上限規制がなかったところ残業時間の上限が設けられ、守らなければ罰則を受けることとなる。具体的な残業時間の制限は月45時間、年360時間となり、臨時的な特別な事情がある場合でも、単月で100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間以内に収めなければならない。建設現場では土日や深夜作業の稼働により残業時間が多いため、現場の稼働日の削減や交代勤務の推進などが必要な状況である。

官公庁工事における足元の発注案件では4週8閉所(週休2日)が義務付けられており、土木では4週8閉所以上の工事が22年度において55%に達し、労働時間の削減が進められている。一方、民間向けが中心である建築では4週8閉所以上の案件は31%に留まっており、働き方改革が遅れている。発注者の理解が進んでいないことや、既に契約済みの案件での工期の延伸は難しいケースが多いことが背景にある。

生産性の改善や受注抑制が必要な状況

既に契約済みの案件では、発注者側がテナントの募集等を始めていることなどもあり、工期の延伸は難しい。今後ゼネコン各社は生産性の改善や受注する案件の受注量の調整等が必要な状況であると言える。例えば、ゼネコンでは生産性の改善に向け、BIM / CIMを用いた図面のデジタル化や各種資料のデータ化とクラウド上での管理・共有、iPadやスマートフォンを用いた写真撮影と図面などの各種データとの紐づけ、測量や管理業務でのドローンの活用などを進めている。設備工事の会社では、標準化された部材の組み立てを工場で行い現場施工の削減を目指すオフサイト工法を推進している。

足元のゼネコン各社の繰越工事高は大手ゼネコンを中心に再開発案件や工場、物流倉庫案件などで高水準であり、施工キャパシティも上限に近いだろう。昨今では品質面での問題が発覚する事案も散見される。ゼネコン各社は品質と工程管理の徹底に向け、受注量の調整と余裕を持った人員配置が求められよう。

競争緩和に寄与も短期はコスト上昇が懸念

現場の施工を行う技能労働者は若年入職者の減少と高齢化が進展し、総数が減少傾向にある。残業時間の規制に伴い技能労働者の労働時間が制限されることになれば、労働需給はもう一段タイト化すると見込まれる。その中で労務費上昇による採算悪化や売上の伸び悩みが建設各社の業績面でのダウンサイドリスクとなろう。

特に都市部では工事量が多く労働需給が既にひっ迫しており、労働需給のタイト化が一段と進めば技能労働者の確保が難しくなるリスクがある。手持ちに大型の再開発案件を数多く抱える大手ゼネコンでは工程遅延が発生すれば追加の労務費が拡大するリスクに留意したい。

中期的にはゼネコン各社の受注抑制により競争環境が緩和し、受注時利益率が一段と上昇する可能性もある。14年度や15年度では発注量が増加傾向にある中で施工キャパシティ以上の発注があり、値上げが進みゼネコン各社の業績は17年度まで上向き基調となった。今後発注が見込まれる大型案件のパイプラインは再開発案件や工場案件等により豊富であり、労務費の上昇の価格転嫁も含めて、値上げを進めることができる状況であろう。

人手不足解消に向けた処遇改善も必要

慢性的に建設業界の賃金は製造業などに比べ低く、技能労働者の減少傾向に歯止めをかけるには長時間労働の是正と同時に処遇の改善が必要であろう。これまで、ゼネコン各社では厳しい価格競争が発生し、協力会社の労務単価の引き上げは進まなかったと見られる。足元では労働需給のひっ迫と豊富な発注案件をうけて競争は緩和に向かっている。環境の変化を追い風として慢性的な人手不足を解消するには、中長期的に技能労働者の処遇や働く環境の改善を継続させて進める必要があると言える。

技能労働者の賃金が低い水準にとどまっている背景として、重層下請構造の問題も一因となっていよう。その中で、大手ゼネコンの鹿島は21年より、重層下請構造の改革に取り組んでいる。具体的には実質的な関与の少ない仲介業者の排除や、一次会社の従業員の能力向上や多能工化の取り組みに支援を進めている。同社では、23年2月時点で二次下請け以内の施工現場の比率は74%まで上昇し、重層下請構造の施工は減少している。重層下請構造は安全や品質面で管理が不十分となるリスクも抱えており、働き方改革と合わせて各社で早急な対応が求められよう。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 濱川 友吾)

※野村週報 2023年12月4日号「産業界」より

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