LFP電池とは
EV(電気自動車)の普及を背景に拡大しているバッテリー市場では、正極材にリンや鉄、リチウムを使用するLFP(リン酸鉄リチウム)と呼ばれるリチウムイオン電池がシェアを伸ばしています。
従来、リチウムイオン電池には、基本的な材料としてコバルトが使用されてきました。しかし、採掘地が限定されている点や、採掘過程における深刻な人権侵害などの問題もあり、近年ではコバルトなどのレアメタルを使用しないLFP電池が注目されています。
大衆車向けリチウムイオン電池ではLFP電池が躍進
LFP電池は、熱安定性や耐衝撃性が高く、長寿命で、材料にコバルトやニッケルなどのレアメタルを使用しないため低コストです。
一方、従来の正極材と比較し、エネルギー密度が低くなる点が欠点となっていました。しかし、世界最大手の車載電池製造企業であるCATLやBYDが開発したCTP(Cell-to-Pack)(注)やCTB(Cell-to-Body)(注)などの技術革新により、エネルギー密度の差が縮まりました。
それらの結果、2023年1~11月に世界で販売されたEV上位モデルには、全てLFP電池が採用されており、大衆EV市場の急速な立ち上がりのきっかけとなっています。
(注)CTPとは、リチウムイオン電池の設計手法の一つで、電池セルをモジュール化せずに直接パック化し、電池セルを隙間なく詰めてエネルギー密度を高める手法のこと。CTBとは、電池セルを直接車両のフレームに組み込み、スペースの無駄を大きく削減することでエネルギー密度を高める手法のこと。
(注)NCM(三元系正極材)はニッケル・コバルト・マンガンを正極材に使用したEVバッテリーを指す。NCM532は正極材のカソード含有量が、ニッケル:コバルト:マンガン=5:3:2の割合となっているEVバッテリー電池。LFPはリン酸鉄リチウムイオン電池。EVバッテリー種類別のコスト比較に用いた金属価格は2023年9月11日時点。
(出所)野村證券エクイティ・リサーチ部より野村證券投資情報部作成
中国に遅れをとっていた日本企業の動きも活発に
トヨタ自動車は、次世代のLFP電池をEVに採用し、2026~2027年に実用化する方針を示しています。太平洋セメントは、LFPより性能を高めたLMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)電池の材料開発を進めています。また、TDKはESS(電力貯蔵システム)向けLFP電池を展開し、市場シェアを伸ばしています。
(出所)野村證券エクイティ・リサーチ部より野村證券投資情報部作成
ご参考: LFP電池関連銘柄の一例
・太平洋セメント(5233)
LFP電池の部材にマンガンを加え、より性能を高めたLMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)電池の材料開発を進めている。
・住友金属鉱山(5713)
2022年5月に住友大阪セメントからLFP事業を買収した。フィリピンなどにニッケル製錬所を持ち、三元系(ニッケル・コバルト・マンガン)などの正極材を生産している。
・TDK(6762)
2021年4月に中国の車載向けリチウムイオン電池大手のCATLと業務提携した。電動バイクなど産業用途向けのリチウムイオン電池の開発や製造に取り組んでいる。また、ESS(電力貯蔵システム)を活用した電力の安定供給にも取り組んでいる。ESSは、大型の蓄電池と電力制御を組み合わせたシステムで、TDKはESS向けのリチウムイオン電池の開発を行っている。
・トヨタ自動車(7203)
次世代電池であるLFP電池をEVに採用し、2026~2027年に実用化する方針を示した。次世代電池では、航続距離1,000km、コストは同社のbZ4X比20%減、現状30分かかる急速充電を20分以下にすることを目指している。
・カミンズ(A1198/CMI US)
米国のディーゼルエンジンのトップメーカーである。2023年9月に、米国トラックメーカーのパッカーとドイツのダイムラー・トラックと合弁会社を設立すると発表した。合弁会社では、LFPバッテリー技術を手がける。
・テスラ(A5861/TSLA US)
2023年4月に公表した基本計画に基づき、航続距離の短い大型トラック「セミ・ライト」や低価格帯の車種にLFPバッテリーを導入している。
・BYD(Z1028/1211 HK)
中国の深センに本社を置く電気自動車およびバッテリー製造企業である。同社が展開しているEV「SEAL(シール)」に、同社が開発したCTB(Cell-to-Body)を搭載している。
(注1)全てを網羅しているわけではない。(注2)外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成
(野村證券投資情報部 寺田 絢子)
※画像はイメージです。