文/中城邦子 ※写真は全てイメージです。

元ファンドマネージャーで、今は個人投資家として活動するみのうさん(ハンドルネーム)は、運用資産額を数億円規模まで増やしています。決算発表シーズン終了後から3つの段階で企業の情報を入手し、「再現性の高い投資」のスタイルをつくることを重視していると言います。情報収集に活用しているのが、証券会社のレポートです。詳しく聞きました。

――みのうさんの現在の投資スタイルを教えてください。

現在は株式を約50銘柄保有し、そのうちの約半分が大型株でほぼ日本株です。決算発表の前に、値上がりを予想して先に購入して勝負することもありますが、多くは発表された決算内容をどう評価するかを考えて、投資行動をすることを大事にしています。

比較的大型のバリュー株投資(注1)をメインに、中小型株やIPO直後の銘柄などのグロース株投資(注2)もしています。今のところ年率30-50%を達成しており運用資産額数億円の規模になりましたが、上には上がいて驚かされます。

(注1)バリュー株投資は、企業の利益・資産などの基準に対して割安なものに投資する手法。PERやPBRの低いもの、配当利回りの高いものなどが代表的な選択基準。「割安株投資」とも呼ばれる。
(注2)企業の売り上げや利益の成長率が高く、継続的に業績が伸びていくことが期待され、将来的には株価も上昇すると予想される企業の株式に投資する手法。「成長株投資」とも呼ばれる。

――以前は、機関投資家として活動されていたのですよね。専業の個人投資家となったのはどんな経緯でしょうか。

私は1990年代半ばに金融機関に新卒で入社し、3年目から運用部門に異動しました。バリューファンド(割安と考えられる企業を株式主要投資対象とする投資信託の総称)のファンドマネージャーとして、2014年まで10年以上勤めました。

ファンドマネージャーとしての成績は良かったのですが、投資だけに専念できるわけではなく、マネジメント業務が増えていました。ちょうど入社20年になるころ、キャリアとして折り返し地点ということもあり、違うこともしてみたいと考えて退職しました。事業を立ち上げて経営する一方で、初めて自己資金での株式投資を始めました。ファンドマネージャー時代は自分では投資ができなかったので。

事業経営と両立して株式投資をしていたのですが、家族に不幸があり育児をメインで担うことになったのを機に、2019年に事業は譲渡し、専業投資家になりました。

――専業投資家になったことで、事業の合間に投資するときと、投資スタイルは変わりましたか。

変わりましたね。兼業だった最初の1~2年は10銘柄くらいに分散していたのですが、その後段階的に銘柄数を増やしていき、50銘柄くらいに分散する今のスタイルになりました。カバーしないといけない範囲は広がりました。

――投資戦略を立てるうえで、どんな情報を参考にしますか。ファンドマネージャー時代の経験は生きているのでしょうか。

個人投資家が可能な範囲で、複数の証券会社のアナリストレポートを見られる状態にしています。各社、レポートを読めるタイミングが機関投資家よりも若干遅かったり、読める銘柄が限られていたりするのですがそれでも役立ちます。

ファンドマネージャーがどこまで担当するかは組織によって違うと思いますが、私が所属していた組織は分業制で、社内のアナリストがリサーチして業績予想を立てて、ファンドマネージャーはその情報を吟味してポートフォリオを組んでいました。資料から投資判断をするという意味では、個人投資家も一定の条件でアナリストレポートを見ることができます。

ただし、機関投資家が個人投資家と違うのは、社内のバイサイド・アナリスト、社外のセルサイド・アナリスト(注3)らと議論できる点です。個人投資家はレポートについて疑問に思っても、書いた人に自由に聞くということはできませんね。直接情報交換できると、「レポートではこう書いてあるけど、直近は印象が変わってきているんだな」など、肌感覚でわかることもあります。それがない状態で判断する難しさを、最初は感じましたね。

(注3)機関投資家など株式を買い運用を業務とする会社のアナリストは、バイサイド・アナリストと呼ばれ、自社の資産運用のためにレポートを作成する。 一方、証券会社など株式を売る側のアナリストは、セルサイド・アナリストと呼ばれ、顧客の投資家に対するサービスとしてレポートを作成する。

――大型株の決算情報はすぐ株価に織り込まれるので、個人投資家は機関投資家に勝てない、と言われることがあります。その点はいかがですか。

私は、そうとは限らないと思っています。情報が機関投資家よりも少ない点をカバーするのが、中小型株やIPO(新規公開)株を投資対象にすることです。また、個人投資家はいろいろな情報を得たら、ポジションをすぐ作れることが強みです。

機関投資家は巨額の資金を運用するため、自身の売買が株価に影響を及ぼさないための制約もありますし、アイデアを即生かせるわけではありません。運用額が大きいとファンドに組み入れる必要な株数も大規模となり、ポジション構築に時間がかります。個人投資家は、どういうポジションを取るかの自由度が高く、早く動ける点は大きな優位性だと感じています。

アナリストレポートは基本的には機関投資家向けなので、中小型株やIPO株がカバーされていることはあまりないです。そういった銘柄は自分で情報を得る必要があり、手間がかかります。その分、大型株についてはアナリストレポートの情報を活用して判断の助けにしています。

元ファンドマネージャーの、アナリストレポートの読み方

――アナリストレポートは何に注目しますか。

基本的には、投資している銘柄に限らず、読めるものはほぼ全部見ています。といってもすべて読み込むわけではなく、サマリーを見てこれまでの見方と変化がないと判断できれば次、と数秒で済ませるものもあります。

個別銘柄のアナリストレポートには、目標株価や投資判断(レーティング)が記載されていますが、これが上がった/下がったというのは気にしていません。「今回のレポートでは、アナリストはどう見方を変えているか」「他社と違う見方が出てきているか」という点にアンテナを張っています。

例えば株価が下落しているある銘柄について、「業績のボトムアウトは下期ぐらい」が各社アナリストの共通認識だったのに、急に「在庫調整が終わり増産に入って業績は下期から前倒して回復すると見ている」というレポートが入ってきたら、それは変化なのでしっかり読みます。

――アナリストレポートを活用したうえで、みのうさんがよく取る投資行動の例を教えてください。

まず、決算発表シーズンの1か月くらい前(証券会社や銘柄によって異なる)、各社からいろいろな銘柄の決算の注目点について書かれたレポートが出ます。それを読んで「A社はこのような決算が出ると市場の予想(コンセンサス)通り」という感触を身につけておきます。

決算発表当日は、臨戦態勢ですね。多くの場合大引け(15時)後、企業の決算が発表されるので、張り付いてその情報を取ります。「A社は、いいサプライズとなる数字が出ている」と感じたらすぐにA社の株式を購入することもあります。

決算発表直後に出るアナリストレポートでは、証券会社によっては、決算に対する第一印象が書かれています。自分が企業の決算内容を見た印象が間違っていないかどうかをこれで確認してから、投資行動に移ることもあります。

そして決算発表後1週間くらいで出てくるレポートでは、企業の説明会の情報も加味してアナリストが予想を修正することが多くあります。それも投資機会になります。1~2か月など、しばらくたってから出てくるレポートもあります。アナリストが独自取材をして新たな情報を得たということが多く、そこにも注目します。

――個人投資家でここまで、レポートの内容を重視するスタイルは珍しいのでしょうか。

専業投資家となってからは、いろいろな勉強会に出席して情報交換をしていますが、意外とアナリストレポートをここまで使っている人は少なくて、見方を教えてほしいと言われることはよくありますね。具体的には、

① 決算発表の前から銘柄について各社がどう見ているのかをインプットする
② 決算発表当日に印象を確認し、答え合わせする
③ 決算発表後に、どう予想修正されるかに注目する

という3段階を、3カ月のルーティンで続けることで、自分でもだんだん決算情報を判断できるようになると思います。これはファンドマネージャーのときからやっているルーティンです。

私が大事だと思っているのは再現性の高さです。

一発当てて株価が2倍3倍になったという話には再現性がなく、「この決算内容なら株価が少し上がりそう」という法則を自分なりに見つけるほうがいいと思っています。大勝するような爆発力はないですが、勝率を上げるほうが結果的には資産を大きくできる可能性が高いと思います。

もちろん絶対そうなるという法則はなく、失敗もします。でも、こういうときは寄り付きで飛びついて買ってはいけない、この業績がでたら閉じなくては(売却するという意味)いけないなど、自分なりの基準を持つようにしています。

――個人投資家としての目標はありますか。

他の個人投資家の方との勉強会では、50億、100億と資産をつくった“怪物”と言いたくなるような人に会えるんですよ。そういった方とお話しすると刺激をもらって、もっと高い次元の投資家を目指したいと感じます。資産額が○億円になったら引退するという考えの人もいますが、私は続けられる限りずっと成長していきたいと思っています。

個人投資家
みのうさん
バリュー株投資の手法を得意とする専業投資家。1990年代半ばに金融機関に入社し、バリューファンドのファンドマネージャーとしての経験が10年以上ある。2014年に退職。株式投資などをしながら3社の事業を開始し、売却。2019年から専業投資家に。

※本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。

ご投資にあたっての注意点