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欧州中央銀行(ECB)が主催する国際金融会議である「ECBフォーラム」が7月1-3日にポルトガルの景勝地であるシントラで開催されました。主として金融を巡るテーマを議論する会議で、米カンザスシティ連銀がワイオミング州のジャクソンホールで毎年8月に開催する経済政策シンポジウムのECB版です。

主要中央銀行の総裁も出席して意見を述べるため、注目を集めますが、今年もパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長やラガルドECB総裁がパネルディスカッションに参加して、意見を表明しました。いずれも、「インフレが十分に減速するにはもうしばらく時間がかかるが、ディスインフレの軌道に戻りつつある」との趣旨を述べ、市場に相応の安心感を与えました。

一方、こうした会議では中長期のテーマも取り上げます。今年は「均衡利子率」についてディスカッションが行われ、米NY連銀のウィリアムズ総裁も参加し、持論を披露しました。「均衡利子率」は「自然利子率」と同義ですが、経済・物価に対して引き締め的にも緩和的にも作用しない「中立的な実質金利水準」のことを指します。「完全雇用のもとで貯蓄と投資をバランスさせる実質金利」の水準として定義されます。同総裁は、従前、均衡利子率の推計を行ってきており、このテーマを主導する一人と言えます。

今回のフォーラムでの同総裁の発言のポイントは以下の通りです。①過去30年間、均衡利子率、中立金利は低下傾向にある。②重要なのは均衡利子率の推計には高い不確実性があることを踏まえ、金融政策の決定におけるその役割を重視すべきではないことである。③均衡利子率が大幅に上昇したとみるには、欧州と米国の間で均衡利子率に関する証拠が一致していないこと、潜在成長率の上昇を示す有力な証拠がないこと、という2つの重要な基準をクリアーする必要がある。

FOMC(米連邦公開市場委員会)が四半期毎に公表している経済見通しによれば、2024年6月時点での(名目)長期均衡政策金利は2.75%となっています。インフレ目標は2.0%ですから、長期実質均衡政策金利は0.75%とみなしていると思われます。本来の均衡利子率はもっと高いのではないか、あるいは最近、上昇しているのではないか、との意見も多く見られます。なお、パウエルFRB議長は今回のフォーラムにおいて、失業率と欠員率の関係を示すベバリッジ曲線に言及した上で、求人数がさらに減少すれば失業率が急上昇するリスクがあると示唆しています。こうした構造的要因の変化にも注目しながら、均衡利子率の議論に注目する必要があります。

目先の金融政策に影響を与えるわけではありませんが、均衡利子率の考え方には潜在成長率、インフレ目標等の在り方も含まれますので、市場の金利水準の目線に影響を及ぼすと考えられます。

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