対ロシア経済制裁の強化からルーブルは急落
対ロシア制裁強化を受けルーブルが急落
ウクライナ情勢の悪化が続く中、ロシアルーブルは対米ドル・対円で史上最安値圏にあります。ルーブルの下落は、2月26日に欧米主要国がロシアの大手銀行を国際決済網から排除し、ロシア中央銀行に対する制裁を表明したことで加速しました。さらに、ロシアの債務不履行リスクの高まりや、米国によるロシア産原油などの禁輸措置を巡る懸念を受けて、ルーブルは下げ幅を拡大させました。
ロシアの債務不履行リスクが高まる
2014年のクリミア半島併合以降、ロシアは欧米による経済制裁下にあり、海外からの資金調達が制限される中、対外借り入れを縮小する一方、エネルギー輸出により得た外貨に加え、金の保有高を積み増すことで制裁に対する耐性を強化してきました。
ロシアの債務不履行リスクが市場で急速に意識されたのは、主要国の対ロシア金融制裁の強化がきっかけです。ロシアの主要行が国際的な資金決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されたことで、市場ではロシアの債務元利払いが滞ることへの警戒感が高まりました。
ロシアの外貨準備の大半は事実上凍結
さらに、ロシア中央銀行が米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本および欧州連合(EU)による制裁対象となったことで、海外の中央銀行に置かれている同中銀の外貨建て資産は、人民元を除いて事実上凍結されました。外貨準備の大半を対外債務の最終的な返済手段に充てられないことは、ロシアの対外債務返済リスクを高めました。
こうした中、欧米の大手格付会社は、投資適格(※)としていたロシア国債の格付けを相次いで投機的水準(※)へと引き下げました。債務返済を巡る不透明感を背景に、ロシアの長期金利は急上昇しています。
※無登録の格付業者が付与した格付(無登録格付業者については11ページ参照)
ロシアからの資本流出加速懸念
ロシア金融市場の混乱が広がる中、通貨ルーブルには下押し圧力が強まっています。
ルーブル安の要因として、第一に、ロシアからの資本流出が加速する可能性が挙げられます。主要国がロシアの金融機関に対するドル取引を禁止し、ロシア国債の取引を禁止するなど金融制裁を強化したことで、資金流出が続いています。ロシア金融当局は外貨流出を防ぐために、外国人投資家への送金禁止、輸出企業に対する外貨収入の8割相当の売却義務化、国内銀行による米ドルなどハードカレンシーの販売禁止、1万ドルを超える外貨引き出し禁止などの措置を打ち出しています。しかし、これら資本規制は通貨ルーブルの信用低下につながることが懸念されます。
ロシア経済の減速リスク
第二に、ロシア経済の減速懸念が挙げられます。ロシアの輸出は原油や石油製品、天然ガスなどエネルギー関連が大半を占めています。欧米など主要国がエネルギー供給のロシア依存を脱却する動きが進めば、輸出を通じた外貨収入の減少、財政状況の悪化につながります。さらに、民間企業によるロシアへの輸出・投資の停止や事業停止はエネルギー、工作機械、自動車、カード会社など多岐にわたります。海外からの投資や輸入が途絶えることは、国内産業の低迷を通じて景気を下押しすると見られます。また、食品や医薬品など生活必需品の多くを輸入に頼るロシアでは、ルーブル安に伴う輸入物価の上昇は個人消費を抑制しやすいと見られます。
ロシア当局による通貨防衛は困難に
第三に、通貨防衛手段の欠如が挙げられます。ロシア中銀は2月28日の緊急利上げにより政策金利を20.0%へ引き上げましたが、通貨下支え効果は限定的でした。外貨準備の大半が凍結されたことで為替介入による通貨防衛は困難となっています。
ウクライナ紛争の停戦協議の行方には不透明感が強く、対ロシア制裁の解除の目途は立ちにくいことから、長期的にルーブルには減価圧力がかかりやすいと見られます。
(投資情報部 野手 朋香)