強気のスタンスを継続

 主要銀行セクターに対する強気のスタンスを継続する。銀行株は2021年初来対TOPIX(東証株価指数)でアウトパフォームしている。しかしながら、ロシアが2月24日にウクライナ全土への軍事進攻を開始すると、欧米諸国は矢継ぎ早にロシアへの経済制裁を打ち出した。①ウクライナ軍がロシア軍に対して当初の想定以上に抵抗しウクライナ紛争長期化への懸念が株式市場で高まったこと、②商品価格急騰に起因するインフレ圧力が悪い金利上昇となるリスクへの懸念が高まり米金利カーブが逆イールド化したこと、③ SWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの排除など金融面での制裁に注目が集まったことなどから、金融株全般に下押し圧力が加わり、3月前半にかけて銀行株はTOPIX をアンダーパフォームした。

 一方、銀行株のバリュエーション水準に目を転じると、3メガバンクの配当利回り(22.3期会社計画基準)が4~5%程度で推移するなど、欧米銀に比しても割安感が強い。また、足元の業績モメンタムは顧客部門収益主導で良好に推移しており、ウクライナ紛争等やグローバルな商品価格上昇の業績への影響は欧米銀行比また日本株他セクター比でも限定的と想定される。

 ウクライナ紛争の長期化の程度にもよろうが、現時点で見れば、ウクライナ紛争の邦銀への収益・資本面での影響は限定的であること、インフレ圧力の高まりを背景に米FRB(連邦準備理事会)が利上げへの姿勢を崩していないこと、などから、邦銀株への強気スタンスを変更するまでには至らないと野村では考えている。

 今後の相場材料としては、目先は、バリュエーション要因から、引き続き米長期金利動向に左右される展開が想定されよう。短期的には、5月の22.3期決算発表時のウクライナ紛争影響に関する各社説明とそれを踏まえた23.3期業績見通し並びに資本政策に関する会社説明が注目される。

 より中長期的な観点からは、以下3つのファンダメンタルズ要因に注目したい。すなわち、①株主還元の継続的な改善、②政策保有株式売却の可能性、③銀行業界全体で資本効率の観点から経営規律強化の流れができつつあること、の3点である。

紛争並びにロシア向け制裁の影響

 ウクライナ紛争並びにロシア向け制裁の直接的影響については、現状大きな影響はないと野村では考えている。

 一方、ロシア政府のデフォルト可能性も視野に入ってきたことを踏まえると、紛争発生当初に想定したシナリオよりは与信費用等の積み増しにつながる可能性は否定できなくなってきた。メインシナリオとしては、ロシア関連の与信費用が1社あたり1千億円未満との野村想定は不変である。しかしながら、将来リスクを極小化するとの経営判断から1千億円を超過する与信費用等を前倒し計上するというリスクシナリオの可能性も完全には否定できない情勢と言えよう。但し、仮にそのような場合においても、3メガバンクいずれも22.3期通期会社計画を下ぶれる可能性は低いと野村では考えている。22.3期第3四半期累計までの会社計画比の各社業績進捗が好調であること、有価証券含み益全体は潤沢であること、などがその理由である。

 邦銀にとってのリスクとしては、ロシア関連の直接エクスポージャーからの影響よりも、本件が将来のグローバルな金融危機のトリガー(引き金)となり、政策保有株式の時価低下を通じて自己資本を毀損することや銀行株のバリュエーション押し下げにつながる可能性により留意が必要だろう。

 ロシアによるウクライナ侵攻(2月24日)以降、内外株式相場が大きく下落する中、銀行株はTOPIXをアンダーパフォームした。株式・債券関連のボラティリティ(変動率)がリーマンショック以来の高水準となる中、極度の見通し不透明感から内外市場におけるリスク回避の姿勢が強まり、米利上げがむしろ経済をオーバーキル(冷やし過ぎ)するスタグフレーションシナリオを株式市場が織り込みに行った可能性があると野村では想定している。

 しかし、継続するインフレ圧力を背景に、3月中旬に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)で示されたように米FRBの利上げへの意思は固いと見受けられ、当面米長短金利には上昇圧力が加わり続けると野村では想定している。一方、ウクライナ紛争や商品価格上昇の邦銀業績への影響は軽微と想定する。このような想定の下、好調な業績モメンタムと米金利上昇に支えられ、3月上旬の直近底値からの株価反発に示されるように、邦銀株が今後TOPIX をアウトパフォームする可能性は高いと野村では考えている。

(エクイティ・リサーチ部 高宮 健)

※野村週報2022年4月4日号「産業界」より

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