ソブリンウェルスファンド(SWF)とは、政府系ファンドとも称され、石油などの資源収入や外貨準備、年金等の国家の金融資産を積極的に運用するファンドを指す。著名なSWF には、アラブ首長国連邦のアブダビ投資庁や、ノルウェーのノルウェー政府年金基金グローバルが挙げられる。その運用規模の巨大さから、世界の金融市場に大きな影響を与える存在である。

 シンガポールには、2つのSWF が存在する。外貨準備およびその他の政府資産を運用するGIC と、テマセクである。

 テマセクは、1974年に政府系企業株式の管理・運用を目的として設立された。設立当初、35社の政府保有株がテマセクに移管され、80年代半ば頃から民営化等により株式売却を進めており、現在まで対外投資を拡大している。テマセクは、アクティブ運用かつ長期的なリターンの最大化を定款に掲げている。このような運用方針によって純資産総額は年々増加しており、2021年度では4,030億シンガポールドル(約36兆円;22年3月末時点)である。

 テマセクの運用の最大の特徴としては、アジアとプライベートエクイティ(PE)への投資が挙げられる。テマセクの資産はほとんどが株式であり、21年度末において、総資産に占めるPE の割合は50%超である。投資地域においては、65%をアジアが占めており、中国への投資比率の高さも目立っている。業種別には、金融サービスや運輸・産業、情報技術、不動産などに多く投資している。さらに、02年以降の各年における過去10年間の保有リターンは年率3~16%とプラスで推移しており、定款で掲げている長期的なリターンを重視したアクティブ運用を実現している。

 近年ではESG(環境・社会・企業統治)投資に関しても積極的な取り組みを行っている。テマセクは50年までにポートフォリオでの炭素排出量ゼロを掲げており、21年4月には、世界最大の資産運用会社であるブラックロックとPE ファンドを設立し、脱炭素に繋がる技術やソリューションを提供するスタートアップ企業(新たなビジネスモデルを開発する企業)への投資を発表した。このような、PE投資を通じた長期的リターンの追求に加え、ESG投資を積極的に進めるテマセクの今後の動向が注視されている。

(野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング 中田 ももこ)

※野村週報 2022年12月12日号「資産運用」より

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