長寿化が進み、個々人の自助努力による資産形成が一層求められる中、多くの国で国民に対する金融経済教育の重要性が高まっている。アジアを代表する国際金融センターであるシンガポールでも、官民において、国民の金融リテラシー向上のための取組みが行われている。

 シンガポール金融管理局(MAS)は、ウェブサイト等を通じて国民に対して金融や経済に係る基礎的な情報を発信している。ウェブサイトでは、貯蓄、投資、相続などトピック毎のガイダンスを掲載しているほか、お金の健康診断と呼ばれるツールを提供している。同ツールは、複数の設問に対する回答を基に利用者の採るべき金融行動を提示する。人々が自身の経済状況に関して自己評価と実際との乖離を認識し、改善できるようにすることを目指している。

 またMASは、マイ・マネーセンスと呼ばれる、シンガポール人材省(MOM)が開発した家計管理ツールの利用を国民に促している。マイ・マネーセンスの利用者は、銀行等で保有する預金やローン、有価証券の残高など、自身の金融情報をオンラインで一元的に閲覧できるのに加え、自身の経済状況に応じたガイダンスを得られる。マイ・マネーセンスは、国民が自身の資産状況を正確に把握し、効果的な資産計画を策定することを中立的な立場から支援しているといえる。

 民間では、MASやMOMの取組みを補完すべく、金融機関と大学が連携する事例がみられる。米シティ・グループの現地法人であるシティ・シンガポールとシンガポール経営大学は共同で、学生向けに金融リテラシーのワークショップ講師育成プログラムを提供している。同プログラムを修了した学生は、習得した金融知識を活用し、若年層向けなど限定的ではあるが講師役を担えるようになる。オンラインを補う対面での金融経済教育の拡大を目指している。

 日本では、2022年11月に公表の資産所得倍増プランにおいて、「安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実」が第五の柱として打ち立てられ、官民一体となった金融経済教育の実施が謳われた。今後日本が金融経済教育を推進するにあたり、シンガポールの官民における取組みを含む、様々な海外事例を参考にすることが肝要と思われる。

(株式会社野村資本市場研究所 橋口 達)

※野村週報 2023年2月13日号「資本市場の話題」より

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