地政学リスク

世界を取り巻く地政学リスクの例

 2022年2月のロシアによるウクライナへの侵攻を契機に、国際政治の舞台では力で変更を試みる動きが徐々に強まってきています。

 米国トランプ政権時代に悪化した米中関係は、バイデン政権になってからも悪化が続いています。近年は、経済や安全保障の問題だけではなく、「新疆ウイグル自治区や香港、台湾」の問題を取り上げ、人権を巡る対立も激しさを増しています。また、北朝鮮の度重なるミサイル試射など、地政学リスクに対する警戒感の高まりをきっかけに国際政治は新たな局面を迎えています。

世界各国の防衛意識が高まる

 地政学リスクの高まりを受け、近年、米国や中国を筆頭に世界各国の国防費が増加しています。日本周辺でも、米国のペロシ前下院議長の台湾訪問を契機に、台湾有事への懸念が台頭するなど、世界各国の防衛意識がより一層高まる局面を迎えています。

 こうした日本周辺での地政学リスクの高まりにも関わらず、日本の防衛費はGDP比1%程度での推移が20年以上続いています。積極的に国防費を増やしている中国や、ロシアとのバランスを取る必要性が高まっており、政府内で防衛力強化が検討されています。

転換期を迎える日本の国防

 こうした状況に対応するために、岸田首相はNATOの目標であるGDP比2%以上を念頭に、日本も2023年度から5年間をかけてGDP比2%に防衛関係費を積み上げる方針を示しました。防衛省は2023年度予算案の防衛費について、過去最大の6兆8000億円程度とする方向で調整を進めています。事項要求には、長射程の国産巡航ミサイルやイージス・システム搭載艦、攻撃用無人機の導入などが含まれており、防衛費の積み増しは防衛装備の充実に寄与する見込みです。

増加するサイバー攻撃と「ゼロトラスト」

 米中関係を始めとする地政学リスクの高まりから、軍事機密情報や国家インフラへのサイバー攻撃が増加しています。特に近年では、国家や公的機関の機密情報や民間企業が持つ最新技術、個人情報などが狙われ、深刻な被害が及んでいます。

 セキュリティー対策では全てのデータ通信が信頼できないことを前提に、全端末の通信データや通信履歴の検査・取得を行い、その都度、利用の可否を判断する「ゼロトラスト」という考え方が主流となっています。具体的には、外部から侵入された端末を検知して切り離すEDRや、端末の通信履歴を収集・分析するSIEM、信頼できるユーザーにのみアプリなどの通信を許可するIAMといった各種セキュリティー製品を組み合わせて構築されます。

セキュリティー・バイ・デザインの潮流

 一方、IoTにおいては無数の機器が存在する為、ネットワークレベルでのセキュリティー対策が難しいという課題があります。そこで、企画・設計段階から攻撃者の目線でセキュリティー対策を検討し、システムの仕様として作り込む「セキュリティー・バイ・デザイン」の必要性が高まっています。例えば自動車は、自動運転車や、つながる車などがハッキングを受け、遠隔から不正に操作される可能性もあることから、ECE(国連欧州経済委員会)は2022年7月から一部の新車にセキュリティー・バイ・デザインの考え方を義務化する基準を採択しました。オンラインでのソフトウエア更新機能を備えた新車に対し、販売前に認証が必要となり、2026年までに発売済の車も含め全車種が対象となる見通しです。様々な分野で、一層のセキュリティー強化が求められており、市場の更なる拡大が期待されます。

(投資情報部 寺田 絢子)

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