※本稿は「令和5年度税制改正大綱」を受け、2024年から現行の仕組みが大きく変わる見込みのNISA制度について解説します。制度は今後、関連法案の作成や国会での審議を経て成立する見通しです。

2024年、新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まる予定です。新しいNISAでは年間の投資枠が大幅に増え、投資商品の非課税期間が無期限となる方向です。「つみたて投資枠」と上場株式や投資信託の売買などに使える「成長投資枠」が併用でき、NISAの使い勝手は大きく向上しそうです。新制度開始に向け、必ず知っておいていただきたいポイントや現行NISAとの関係などを解説します。

現行NISA制度と新制度(2023年度税制改正大綱で示された制度)の比較

新しいNISAとは?

昨年11月、政府の新しい資本主義実現会議は「資産所得倍増プラン」を正式に決定しました。その中核に据えられたのがNISAの拡充・恒久化です。投資経験者を倍増させ、中間所得層の資産形成を後押しすることが狙いです。

これを受けた2023年度税制改正大綱では、より詳しい内容が示されました。これによると、NISA制度の拡充・恒久化における大きなポイントは、1)投資額を拡大する、2)非課税期間を恒久化する、3)投資枠を再利用できるようにする、の3点です。

通常、株式や投資信託などの金融商品を売却したり、配当を受け取ったりすると約20%の税金がかかります。新しいNISAではこの税金がかからない非課税枠(投資枠)が大幅に増えます。

現行制度は年間投資枠が40万円のつみたてNISAと、120万円の一般NISAとの選択制で、どちらか一方しか選べませんでした。新しい制度では、積立や分散投資に適した投資信託が買える「つみたて投資枠」が年間120万円、加えて上場株式などが購入可能な「成長投資枠」が240万円に増える方向で、併用することが可能です。年間投資額の上限は計360万円と、現行の一般NISAの3倍に拡大します。

また、生涯で投資できる総額も大きくなります。非課税保有限度額は1800万円(うち成長投資枠は1200万円)となる予定です。現行制度では、つみたてNISAの最大投資枠は20年間で計800万円、一般NISAでは5年間で計600万円と、非課税の総額としても2倍以上になります。

制度改正の3つのポイント

非課税期間の恒久化、投資枠が復活

また、非課税で保有できる期間の制限もなくなる予定です。現行制度ではつみたてNISAの非課税期間が最長20年間、一般NISAでは最長5年間でしたが、新制度ではどちらも無期限となりそうです。

さらに、現行制度では、商品を売却した分の投資枠は使えなくなり、売り買いは慎重に行う必要がありました。一方、新しい制度では、売却した翌年に商品の元本価格分の生涯投資枠が再利用できるようになるとみられます。このため、ライフプランに応じて資金が必要な時は現金化し、余裕ができれば再び投資をするなど、資産形成の自由度が高まりそうです。

成長投資枠とは?

新しいNISAは、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の「2本建て」と考えることができます。成長投資枠とは現行の一般NISAの役割を引き継ぎ、上場株式などに幅広く投資ができるものです。ただし、上場廃止のおそれがある監理銘柄や上場廃止が決まっている整理銘柄、高レバレッジ型や毎月配分型の投資信託などは除外されます。

現在の一般NISAの年間投資額は年120万円。上場株式の売買単位(単元株式数)は原則100株なので、制度を使って買いたくても枠内に収まらない銘柄もありました。しかし、上限が240万円まで拡大することで上場株式の大部分がNISAで買えるようになり、商品選びの幅が広がりそうです。なお最近、上場企業が株式を分割し、個人投資家が手を出しやすい株価へと引き下げる動きが相次いでいます。この背景の一つとして、新しいNISAの投資枠を各企業が意識した側面もあるのではないかとみられます。

現行制度から移行できる?

現行制度で投資した商品は新しいNISAに移行できない方向となり、ぞれぞれの非課税保有期間の中で運用していくことになります。現行制度での投資分は新しいNISAの非課税措置の枠外となります。すでにNISAを始めている人は非課税枠がより大きくなると考えることもできます。

また、18歳未満を対象に年間80万円の非課税投資枠があったジュニアNISAは、2023年末で新規の口座開設ができなくなり、2024年以降は新規に購入もできなくなる方向です。

NISA口座数は倍増するか

NISAは2014年1月、英国の制度を参考に、個人の投資活動を促進するためにスタートしました。金融庁によると、2022年9月現在で、一般、つみたて合わせたNISA口座数は1753万口座、買い付け額の合計は約28兆円です。まだ制度として十分国民に浸透しているとは言えない水準といえそうです。

政府の資産所得倍増プランでは、NISAの拡充・恒久化により、1.投資経験者の倍増としてNISA口座数を現在の約1700万口座から5年間で3400万口座とする2.投資の倍増として、NISA買付額を現在の28兆円から56兆円とする、の2点が目標として掲げられています。NISAの使い勝手が向上することで、制度をフル活用して資産形成する現役世代の人が増えることでしょう。

NISAについての注意点

ご投資にあたっての注意点