米国の中堅銀行の破綻が波紋を呼んでいます。FRB(米連邦準備理事会)による本格的な利上げ~金利上昇(債券価格下落)~保有債券の損失拡大~預金取り付け騒ぎ、という経緯です。更に、スイスの大手銀行の経営問題も再燃しています。

ポイントは、「金融システミックリスク」に発展するかという点です。結論としては、その事態に至る可能性は低いと思われます。米中堅銀行の破綻の主因は、負債(主として預金)と資産の期間のミスマッチです。資産の多くを償還まで10年以上の長期債に投資していたため、損失が拡大しました。こうした状況にある銀行は限定的と見られ、固有問題と言えるでしょう。

一方、グローバルなシステム上重要な銀行、いわゆるG-SIBsの財務構造は安定しており、概ね資本も十分に備わっていますので、特に短期金融市場で資金が目詰まりするリスクは限定的と見られます。マネーは「血液」に例えられます。大出血した場合、止血して、血流を確保する必要があります。止血は金融当局の役割で、今般の米国財務省、FRBの対応は迅速でした。破綻銀行はFDIC(連邦預金保険公社)の管理下に置かれ、全ての預金を全額保護する、との措置です。一方、血流の主役はかつてはマネーセンターバンクと呼ばれたG-SIBsです。資金の源泉は中央銀行ですが、大規模な資金を仲介するのは大手金融機関であり、財務上の問題が無ければ、決済は担保されます。

なお、2008年に発生したリーマンショックの反省を踏まえて、G-SIBsは厳格な資本政策を求められ、当局による厳しい審査が課せられています。いわゆる「ストレステスト」です。

勿論、予断は許しませんし、しばらく余波を注視する必要がありますが、現行のFRBの金融引き締め政策は継続、と想定して良いものと考えられます。今般の破綻のケースにより、FF金利先物市場では今年の後半から利下げを織り込み始めています。確かに、市場における現在の緊張感そのものが引き締め効果があることは事実でしょう。しかし、米国の雇用市場は堅調であり、遅行指標である失業率や賃金が落ち着くまでにはもうしばらく時間がかかるでしょう。

FRBなどの中央銀行はフォワードルッキング、すなわち先を見越した金融政策を運営しています。しかし、金融政策の発動が必要とされる事態が認知され、実際に政策が発動され、効力が発生するまでにはそれぞれ時間的ラグがあります。先ず、雇用者の月間ベースの増加分が15万人程度で継続し、その後に失業率は上昇経路を辿ります。

今般の混乱が金融システミックリスクに発展しない、という前提であれば、早晩、FRBは利上げプロセスに回帰し、実際の利下げまでは相応の時間をみておくべきと考えます。

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