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33分前

【オピニオン】トランプ政権下で成立した「1つの大きく美しい法」を巡る政治経済学

※画像はイメージです。 米国では2025年7月4日、トランプ大統領が選挙公約に掲げた大型減税策を盛り込んだOBBB法(1つの大きく美しい法:The One Big Beautiful Bill)が成立しました。 同法の最大の目玉は第1次トランプ政権で成立した2017年税制改革法(TCJA:Tax Cuts and Jobs Act)に盛り込まれた個人所得税・法人減税の延長(恒久化)措置です。CRFB(責任ある連邦予算委員会)の試算によれば、同法による個人・法人向け減税のコストは10年間で5.2兆ドル、このうちTCJAに盛り込まれた減税の延長によるコストは3.5兆ドルと、追加減税(1.7兆ドル)の2倍強に達します。 追加減税に関しては一定の景気浮揚効果が期待できる一方、既往の減税の延長による景気浮揚効果は限定的であると考えられます。CBO(米議会予算局)は同法の成立により10年間で財政赤字は3.4兆ドル増加すると試算していますが、予算規模ほどの景気浮揚効果はないと言えそうです。 また、同法には財源を確保するためにバイデン政権で成立したインフレ抑制法による脱炭素減税の削減だけではなく、低所得層向け食料支援プログラム(SNAP)や公的医療保険制度(メディケイド)の縮小などが盛り込まれました。 CBOは、2034年までに1,000万人の国民が医療保険の受給資格を失うと分析しています。加えて、所得階層別の家計への影響に関する試算では、高所得者層ほど恩恵が大きく、低所得者層ほど悪影響が大きいとの結果を示しました。2026~34年の年間平均変化率では、最下位10%の所得階層の世帯資源(所得、投資収益、貯蓄、資産等の家計が活用できる経済的資源)が3.9%減少する一方で、最上位10%では2.3%増加する見込みです。 移転給付及び税制変更による所得階層別影響試算 (注)移転給付及び税制変更によって2026~34年に生じると見込まれる世帯資源(所得、投資収益、貯蓄、資産等の家計が活用できる経済的資源)の平均年間変化率。現行法下で使用されている2025年ドルベース。連邦・州の現物給付は低所得者向け食料補助プログラム(SNAP)、低所得者向け公的医療保険(メディケイド)、住宅支援、教育サービスなど、物品やサービスの形で提供される公的支援。(出所)CBO(米議会予算局)、 JCT(合同税務委員会)資料より野村證券投資情報部作成 通常、所得階層が低くなるほど限界消費性向が大きい(所得の増減に対して消費の反応が大きい)と想定されるため、高所得層の消費拡大は期待し難い一方、低所得層の消費抑制効果は大きくなる可能性があります。 結果、同法の成立によってFRBの金融緩和スタンスに修正を迫られる可能性は低いと考えられます。 一方、米国では2026年11月に中間選挙が予定されており、民主党はOBBB法による所得格差の拡大効果を取り上げ、トランプ政権を批判する材料とすることが想定されます。現時点ではトランプ大統領の支持率に対するOBBB法の影響は明確ではありませんが、トランプ大統領の誇示する大型減税策が、共和党の党勢拡大に寄与し得るのか、今後の展開が注目されます。 ご投資にあたっての注意点

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