グリーン水素の安価な製造方法として次世代水電解装置に注目している。

脱炭素を実現するためには、次世代エネルギーとして水素が不可欠であるという認識が浸透している。世界中で化石燃料から再生可能エネルギー(以下、再エネ)による電気へのシフトが進む中、電化対応が難しい分野は水素による代替が期待されるためである。具体的には、船舶や航空機向けの燃料や、鉄鋼業における鉄鉱石の還元剤などが挙げられる。

国際エネルギー機関(IEA)は、脱炭素のために必要となる世界の水素製造量を2050年で5.3億トン超と見積もっている。この実現のためには、CO2を排出しないクリーンな水素を安価かつ大量に生成する必要がある。

クリーンな水素として期待されているのがグリーン水素である。グリーン水素とは、再エネの電力を用いて水を電気分解することによって得られる水素である。

グリーン水素の製造コストの大半は電力コストである。現在水電解で主流となっているアルカリ形電解では、1m3の水素を生成するのに5kWh前後の電力が必要である。コストダウンのため、経済産業省は30年に電力消費量を4.3kWh まで改善することを目標としている。

経産省の改善目標が年率2%程度と緩やかなペースに留まる背景には、アルカリ形電解では電極で発生する水素の気泡が電極と電解液の接触を妨げ、水素生成効率を低下させることがある。既に100年以上の歴史を持ち、成熟化した技術であるだけに、更なる効率改善は困難と見られてきた。

だが近年、システムや材料の構造を見直すことで、アルカリ形電解の水素生成効率を大幅に改善する事例が現れている。

豪州では、気泡が発生しない、キャピラリー供給電解セルという新しいシステムが開発され、電力消費量が3.6kWh まで改善された。同技術を商用化するために、大学発スタートアップも設立されている。米国では、材料の細孔構造を制御することで気泡を抜け易くした電極が、デューク大学で開発されている。

両技術はいずれも開発中で、実用化する際には、設備の大型化などが課題となろう。これらを含む次世代の水電解技術の今後の動向に期待したい。

(野村證券フロンティア・リサーチ部 横山 恭一郎)

※野村週報 2023年6月26日号「新産業の潮流」より

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