中国景気は持ち直しの兆し

今後のアジア株は、中国景気の安定化の恩恵を受けよう。中国の在庫調整終了とテクノロジーセクターの循環的回復により韓国、台湾、ベトナム、香港・中国の株式市場への好影響が期待できよう。インドについては中長期の成長ポテンシャルが株価を下支えしよう。本稿ではアジア株の現状と見通しを概説する。

年初来(10月13日時点)の世界主要株式市場の騰落率は、欧米、日本などの先進国やアジア新興国のパフォーマンスが好調だった。アジア株(日本を除く)では、台湾、ベトナム、韓国、インドが堅調だった一方、タイ、香港、フィリピン、中国のパフォーマンスは相対的に劣後した。米国が利上げ終了局面に近づく中、特に年前半は米国株の上昇がグローバル株式市場全体をけん引し、AI(人工知能)の普及や半導体市況の底入れ観測も台湾や韓国などのテクノロジー株の追い風になった。

しかし、足元では、米長期金利が再上昇し、中東の地政学リスクも意識され、グローバルに株価は軟調に推移している。インドについては、足元の景気が堅調で、かつ、中長期の成長ポテンシャルに注目が集まっているが、9月中旬に過去最高値を更新した後は、上値の重い展開となっている。

ゼロコロナ政策解除後の回復の勢いが失速し、低調が続いていた中国本土や香港(以下、中国株)は、8月の主要経済指標や9月製造業PMI(製造業購買担当者景気指数)で示された景気の安定化の兆しが相場を下支えした。不動産市場の支援策や金融緩和、在庫調整の進展、米中対立の緩和期待が景況感の改善に寄与していよう。

しかし、10月入り後に発表された経済指標に見る中国景気の足取りは勢いを欠く。9月物価統計が市場予想を下回り、需要の弱さを反映してデフレ圧力の継続が示唆された。9月貿易統計は輸出入ともに前年比でのマイナス幅が縮小したが、アジアの主要輸出国との比較では依然として強い逆風に直面していることが明らかになった。

また、製造業の循環的な回復により中国景気は緩やかな持ち直しが期待されるものの、後述する通り、構造的な問題が山積みで、回復には時間を要そう。

岐路を迎える中国経済

アジア株の本格的な底入れには中国景気の回復がカギになろう。そのためには中国の不動産市況の底入れ、米中関係の改善、及び民間企業に対する支援の実現が重要になると見ている。

8月から中国では住宅取得時の頭金規制の緩和や、住宅ローン金利の引き下げが実施され、大都市の住宅需要を押し上げたが、不動産セクターの悪化スパイラルを食い止めるには十分でないと見ている。足元では中国不動産開発大手の資金繰り懸念が続いており、多くの建設プロジェクトが完工しておらず、新たな資金調達へのアクセスが制限されているため、依然として流動性不足に陥っている。オフショア債(中国本土外で取引される債券)が債務不履行に陥り、再建案について債権者から合意を得られない場合には、金融市場に混乱をきたす可能性があり注意が必要である。

他方、米中関係にも目配せが必要である。テクノロジー分野での米中のデカップリング(経済分断)は、バイデン政権で半導体製品に関する輸出管理が強化されるなど更に進展し、米国の対中貿易依存度は低下している。それに対抗して中国では半導体国産化を進めているが、2022年の半導体設備の国産化率は約22%に留まる。23年8月に中国通信機器大手が先端半導体搭載の携帯電話を発売し、生産能力が向上したと評価を得たが、大量生産は困難とされ、自国内での供給網の完結には程遠い状況である。足元では、米中双方の産業界から輸出規制の追加措置の実施に懸念を示す声が上がり、両政府が対話を活発化させている。しかし、安全保障や先端分野での覇権争いは今後も続く可能性が高く、中国の輸出や技術革新の阻害要因となり続けよう。

中国政府は民間企業の統制を強める方針から支援に舵を切っている。23年7月には民間企業に対する政策支援の強化、9月には専門機関を設置し、民間支援策の制定などを進める意向を示した。中国の民間企業や金融市場が懸念しているのは、それが着実かつ継続的に実施されるかである。

これまでも中国政府には規制を強化する時期と緩和する時期が交互に訪れる政策サイクルが存在していたが、現在は緩和の方向にある。中国政府の政策に対する信頼感と政策の予見性が回復し、冷え込んだ企業や家計のマインドが回復しなければ、景気の本格的な持ち直しは見えてこないだろう。中国経済は長期的な停滞に向かうのか、再び成長路線に回帰するのか、岐路を迎えていよう。

( 野村證券投資情報部 坪川 一浩 )

※野村週報 2023年10月23日号「焦点」より

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