日本銀行は「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」として、加重中央値、刈込平均値、最頻値の3指標を公表している。このうち加重中央値は、品目別価格上昇率の高い順にウエイトを累積して50%近傍にある価格変化率を指す。CPI(消費者物価指数)総合やコアCPI(生鮮食品を除く総合)のような加重平均値と異なり、加重中央値は極端な価格変動を伴う品目による影響を受けにくいことになる。

加重中央値の実績を確認すると、最新データが得られる2023年10月時点で前年同月比+2.2%まで加速した(図表)。数字上は、日本銀行が物価安定目標として掲げる2%のインフレ率に到達したことになる。

ただ、為替レートや原油価格といった一時的な外的要因が、加重中央値から完全に除外されているわけではない点に留意する必要がある。足元のインフレ加速局面においては、多くの品目が外的要因による影響を受けている点を踏まえると、加重中央値の数字と日銀の物価安定目標が一対一対応する訳ではない点に注意が必要だ。

外的要因による影響を極力除去するため、野村では「サービス版加重中央値」(持家の帰属家賃を除く)を用意した。サービス産業は、①費用全体に占める人件費のウエイトが比較的大きい、②人件費は光熱費や原材料費と比較して硬直的である、等の特徴がある。

「サービス版加重中央値」の実績をみると、23年10月時点で前年同月比+1.0%となった。全体版の加重中央値と比較すると、伸び率は依然低い一方、足元では緩やかに加速していることがわかる。サービス品目におけるインフレの基調が少しずつ高まっているとみられる。先行きにおいても、インフレの基調が高まっているか判断する上で、サービス版加重中央値の動きは一つのツールになると考えられる。

(野村證券経済調査部 伊藤 勇輝)

※野村週報 2023年12月4日号「経済データを読む」より

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