政府は財団などの役割を明確化へ

岸田文雄首相は 2023年10月2日に、「受益者に適切な運用の成果をもたらすよう、アセットオーナーに求められる役割を明確化したアセットオーナー・プリンシプル(原則)を、来年夏を目途に策定する」と述べました。アセットオーナーとは、資金の運用等を受託し自ら企業等に投資を行う資産運用会社に対して、当該資金を出す資産保有者のことであり、年金基金、保険会社、大学基金、財団、美術館、博物館などが含まれます。

米国最大級の財団、ビル&メリンダ・ゲイツ財団

米国では、アセットオーナーの多くが積極的な資産運用を行っています。米国の財団の中でも米国最大級の資産規模を有するビル&メリンダ・ゲイツ財団は、ビル・ゲイツ氏、メリンダ・フレンチ・ゲイツ氏(ビル・ゲイツ氏の元配偶者)、ウォーレン・バフェット氏から寄付を受け入れ、助成活動を行っています。幅広い助成分野の中でも、特に公衆衛生の向上や健康の増進に取り組んでおり、世界保健機関(以下、WHO)のスポンサーとして著名です。同財団が WHOに助成した支出額は、世界の主要国を上回る規模となっています。

2020-2021 年度の WHO への助成支出額ランキング

(出所)WHO のウェブサイトより野村資本市場研究所作成

同財団に投資助言を行うカスケードの投資戦略

こうした助成活動に必要な財政的資源を確保すべく、同財団は多様な資産への分散投資を行っています。本記事では、同財団の資産運用を担当するビル&メリンダ・ゲイツ財団トラスト(以下、BMGT)と、BMGTへの投資助言を行っているカスケードの運用戦略についてご紹介します。

カスケードは、ビル・ゲイツ氏が保有する 1,100 億ドルもの個人資産(2023 年 10 月時点の推定値)の運用行うファミリーオフィス(個人富裕層やその親族の資産管理会社)であり、ビル&メリンダ・ゲイツ財団への投資助言も同時に行っています。カスケードは、BMGTの資産を運用するにあたって、株式、債券、コモディティ(商品)、デリバティブ(金融派生商品)など多様な資産に投資しています。カスケードの2022年度末時点の投資エクスポージャー(投資配分)は、株式(非上場株式を含む)が約59%、債券が約21%、バークシャー・ハザウェイB株式が約11%、デリバティブ及びその他が約5%、コモディティが約4%となっており、株式を主体とするポートフォリオを構築しています。なお、カスケードは、株式や債券などを取引するにあたって、カスケード自身が個別銘柄に直接投資しているだけではなく、外部運用会社の株式ファンドや債券ファンドに投資する場合もあります。

BMGT の投資先の内訳

(注) 図表の値は、米国会計基準に基づく公正価値である。
(出所)BMGF の決算報告書より野村資本市場研究所作成

カスケードは、その他、運用担当者が投資先企業の取締役に就任し同企業の価値向上を促したり、プライベート・エクイティ・ファーム(主に未上場株式に投資する運用会社)と非上場企業に共同投資したりすることもあります。多様な手法を通じて、多様な資産に分散投資することで、BMGTの資産規模を拡大し、同財団の助成活動をサポートしています。

日本の財団も分散投資を行う必要性

日本の財団の多くは、預貯金・債券に偏重したポートフォリオを構築していますが、今後は助成活動に必要な財政的資源を確保すべく、専門の資産運用会社等から投資助言を受け、多様な資産に分散投資を行う必要があると考えられます。また、今後策定されるアセットオーナー・プリンシプルにおいては、アセットオーナーの運用高度化を図るべく、分散投資義務等を規定することを検討してもよいのではないでしょうか。

※野村資本市場研究所レポート「ビル&メリンダ・ゲイツ財団の資産運用戦略及び助成活動-日本に求められるアセットオーナー改革への示唆-」(2023年11月8日(水)、岡田功太・船津太佑)より、FINTOS!編集部にて編集

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