執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネスビジネス・コンサルティング部
   コンサルタント 中村 圭吾(2025年6月18日)

はじめに

昨今のニュースなどでグローバルサウス(以下、GSと呼ぶ)という言葉を耳にする機会が増えた。GSには明確な定義があるわけではないが、いわゆる新興国・開発途上国を指し、多くの新興国・開発途上国が地球の南半球に位置していることに由来している。近年、欧米などのいわゆる先進国に属さない第三勢力のGS諸国が、国際的な影響力を高めている。本レビューでは、GS諸国を今後の世界経済を牽引する新興国・開発途上国の総称と定義し、その台頭の背景と、特に同地域のフード&アグリ分野の可能性に関して、2回にわたりシリーズ化する。

前編にて、フード&アグリ分野にて、台頭するGS諸国が共通して直面する課題を整理するとともに、それらの課題の解決に挑むスタートアップを数社紹介する。

その上で、後編にて、GS諸国間の文化・社会的な違いから生じる課題やニーズに対する解決策が求められる中、グローバルな食料安全保障や環境問題の解決に挑戦する日本企業の事例と、それらの取組を支える日本政府、政府系機関、自治体のスキームなどを取り上げ、GS諸国を対等なパートナーとして捉え、共同で新たな価値を創出していく「共創」のあり方を考察する。

1. 国際社会の混乱とグローバルサウス諸国の台頭

GSに括られるアジア、アフリカ、ラテンアメリカの多くの国々は、豊富な天然資源や人口増加を背景とした経済成長を続けており、2050年には、GS諸国の人口は、世界人口の3分の2を占めるとも言われている(図表1-1)。また、経済面でも、既にG7[1]を上回る規模となっており、その後もその経済規模はさらに拡大していくと見込まれている(図表1-2)。

GS諸国では、イノベーションへのニーズが大きく、先進国に比べて法律や制度も十分に整備されていないことから、規制を受けることなく新技術の実用化が比較的早く進む点も特徴である。そのため、多くのGS諸国は、最先端技術を導入することによって、既存技術で成長を遂げてきた先進国よりも更なる発展を遂げる現象、いわゆるリープフロッグ型に経済発展する可能性を秘めている。

図表1-1(左) 人口予測   図表1-2(右) GDP対世界比(購買力平価換算)シェア

(出所)国際連合「World Population Prospects 2024」(左)、IMF「世界経済見通し」(右)の各統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成

一方、GS諸国の歴史的・文化的な背景は多様であり、経済的には一定程度発展しているものの都市化や高齢化などの社会課題に直面する国、インフラ、公衆衛生や教育に問題を抱える国、食料や医療の不足に苦しむ国、難民の発生や気候変動の影響等に苦しむ国など各国に共通する課題とその国・地域特有の課題が存在する。GS諸国のニーズが、経済成長だけでなく社会課題の解決にシフトする中で、この地域の企業を「共創」のパートナーとして日本企業が捉え、グローバルな課題を共に解決することが重要になっている。

2. グローバルサウス諸国のフード&アグリ分野における課題

GS諸国では、それぞれフード&アグリ分野のおかれている自然条件や社会条件は様々であり、各地域の特性に応じた課題を把握することが重要である。本章では、その中でもGS諸国(及び一部の先進国)で共通する課題として5つの分野を取り上げたい(図表2-1)。

図表2-1  GS諸国(及び一部の先進国)で共通する5つの課題

(出所)野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成

1)食料安全保障の脆弱性

国連食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障を、「すべての人がいかなる時も、活動的で、健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況」と定義[2]している。この食料安全保障を構成する4つの要素として「供給可能性」、「安定性」、「適切な利用」、「物理的・経済的入手可能性」が挙げられるが、GS諸国は、これら4つの不安定さにより、食料不足や飢餓に苦しみやすい。例えば、ウクライナからの輸出品のうち、特に小麦は、一部のアジアおよびアフリカ諸国にとって極めて重要で、これらの国々は、ロシアによるウクライナ侵攻前の2016年から2021年まで、ウクライナで生産する小麦の約9割を輸入していたが、ロシアによる黒海港の封鎖により、小麦の供給減少と価格高騰で大きな食料安全保障上の危機に直面した。現在は、世界的に良好な小麦の収穫量を背景に、一時期に比べると価格は安定しているが、今後もウクライナの世界市場への穀物の輸出能力が回復しなければ、GS諸国を中心とした穀物の供給力は不安定な状態が続くと予想される。

このように食料不安は経済的に脆弱な国々への負荷が大きい。「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2024年報告」によると、2023年の栄養不足人口は、中央値で7億3,300万人と推定されており、2019年に比べて、2023年には飢餓に直面した人が1億5,200万人増加している(図表2-2)。また、同年の栄養不足人口を地域別で見ると、アジアとアフリカが、それぞれ3億8,450万人と2億9,840万人を占めており(図表2-3)、多くのGS諸国では、気候変動や自然災害、経済的制約などを背景とした農業生産性の低下や不安定な食料供給を背景に、食料安全保障が確保されていない状況が続いている。

図表2-2(左) 世界の栄養不足人口の推移   図表2-3(右) 地域別の栄養不足人口

(出所)FAO等「SOFI2024年報告」の統計データより野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成

 

2)温室効果ガス排出と気候変動への対策不足

 多くのGS諸国では、経済成長の進展にともない、大気汚染、水資源の枯渇、生態系の喪失などの問題が表面化している。これらの国々は、経済発展を優先するために、環境問題への対策を後回しにする傾向にあり、これにより温室効果ガス(GHG)排出量が増加し、結果としてインフラ整備や新技術導入が遅れ、災害に対する回復力・耐久力が乏しいGS諸国において気候変動による被害が特に深刻化している。実際に、1990年には、温室効果ガスの累積排出量は先進国が41%、開発途上国が42%でほぼ同じ割合であったが、2022年にはGS諸国がGHG総排出量のうち65%を占めている(図表2-4)。一方で、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)では、開発途上国が先進国に対して、現在進行する地球温暖化の主な原因を作ったのは、環境対策を無視して経済発展を遂げてきた先進国だとして、率先してGHG排出を減らすことや開発途上国への巨額の資金支援を求めている。このことで、開発途上国と先進国の間で対立が生じ、今後のGHG排出の目標やエネルギーの発電、消費方法等に関して交渉が難航する場合が多い。

図表2-4  先進国とグローバルサウスのGHG排出量の割合

(出所)「Climate Watch[3]」の統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成

私達人類は、産業革命以後、大量の化石エネルギーを消費し、GHGを発生させてきた。しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)[4]によると、現在のままGHG排出が継続すると、地球の温度は2030年前後に、産業革命前から比べて1.5度上昇する危険性が指摘されている。さらに、2025年1月の欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」の報告[5]では、すでに2024年の平均気温は産業革命前と比べて約1.6度高かったと報告されている。2015年のCOP21にて採択された、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」では、上記の1.5度の気温の上昇幅は、単年の数字ではなく、複数年の平均で判断するとされているが、地球温暖化への対策は一刻の猶予も許されない状況である。

GHGは、大気中に存在するCO2やメタン、フロンなどのガスの総称で、世界のGHG排出量は、CO2換算で590億トンあると推定されている(図表2-5)。このうち、農業に起因するGHG排出は、排出全体の約11%で約65億トンを占める。農業は数千年にわたり人類文明の中心的役割を果たしてきたが、これらに起因するGHG排出も、今後のGS諸国を中心とした人口増加と食料需要の高まりに伴い、適切な対策を講じない限り、更に増加すると予測されている。このように、GHG排出と気候変動は、開発途上国の経済発展と密接に繋がっており、国際的にGHG排出削減が求められていることを背景に、近年、GHGの削減量や排出権を企業間で売買できるカーボンクレジットの市場が成長してきている。しかし、クレジットの制度設計や認証体制等に関してグリーンウォッシュ[6]として非難されるなど、発展途上期でもあり、現在のところ、先進国を含め気候変動に対して十分な対策は講じられていない。

図表2-5  世界の農業由来のGHG排出量

(出所)IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書(2022)及びFAOSTATより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成

3)労働力と人的資源の制約

2050年には、GS諸国の人口は、世界の人口の3分の2を占めると予想されており、農業関連市場は高いポテンシャルがある。一方、広大な国土を有する一部の国を除き、GS諸国の多くの農家は1ha未満の面積で農業を営む小規模農家であり、かつ不毛な土地で灌漑などの設備もなく、低賃金かつ厳しい労働環境下で働いている。農業労働の人口比率は、東南アジア・大洋州54.4%、南アジア50.5%、サハラ以南アフリカ56.5%[7]となっており、特に低所得国で高い傾向にある。

また、インド、タイ、ブラジル、サハラ以南アフリカ、東南アジア諸国を中心に、農業従事者の高齢化問題も深刻化している。これら国・地域では、農業が地域経済の中心である一方で、若者の都市部への流出や農業離れなどを背景に、若年層の農業従事者が減少しており、高齢者が農業の担い手として中心的な役割を担っている。そのため、開発途上国では、先進国同様もしくはそれ以上に、農業分野での後継者不足が深刻で、新たな技術や知識を持った人材育成が急務とされている。

農業分野におけるジェンダー不平等もまたGS諸国の農業生産の低い成長率の要因の一つとされている。例えばアフリカ諸国では、女性は農業労働人口の大部分を占めているが、土地の配分に関しては多くの障壁に直面している。また、女性は男性に比べて金融サービスやそれに付随する支援サービスへのアクセスも厳しい傾向にある。

4)技術導入のための資金力不足

GS諸国の農業の近代化を阻害する要因として資金的および技術的な制約も存在する。多くのGS諸国に共通する課題として、農業に関する教育や技術が不足しているため、農家が最新の農業技術を学びそれらを実践する機会が限られている。また、金融機関などから資金調達することも困難であるため、新たな技術の導入や農業の効率化が進みにくい。

さらに、アフリカや中東では、水不足による干ばつ被害が深刻で、効率的な灌漑技術の導入が進まない状況にある。広大な土地があるラテンアメリカでは、土地所有権が複雑で、農業技術の導入が進まない要因となっており、技術に関しても、最新技術にアクセスできる大規模農家とそうでない小規模農家との間での技術格差が広がっている。東南アジアやラテンアメリカで行われているプランテーション・モノカルチャーは、砂糖、コーヒー、ゴムなどの単一作物を大規模に栽培する農法で、効率的な生産が可能である一方、土壌劣化や害虫繁殖を招きやすく、また周辺地域の生態系への悪影響や労働環境の問題も指摘されている。

5)市場アクセスの困難さ

多くの開発途上国では、農産物の流通システムが近代化されておらず、多段階で複雑な構造であるため、農家は市場へのアクセスが難しく、生産コストを回収できる価格での販売が困難となっており、低賃金の要因の一つになっている。例えば、多くの東南アジア諸国では、経済発展に伴い、中間層の拡大と若年層の消費増加により食品市場が拡大しているものの、輸送インフラやコールドチェーンは未整備な部分が多く、生産者は高品質で安全な農産物を栽培しても、サプライチェーンの途中におけるフードロスも大きい。さらに、農家共同体による共同販売や生産体制も未確立な場合が多く、中間流通業者に対する農家の価格交渉力が低いという課題もある。

3. グローバルサウス諸国のフード&アグリテック市場とスタートアップ

ここまで、GS諸国の可能性と同地域の農業分野に関連した課題について整理した。このような成長著しいGS諸国では、多くのフード&アグリテック系スタートアップが、農業分野における課題の解決を目指して、食料増産、農家の生計向上、金融アクセスの改善などの事業を展開している。

本章では、リープフロッグ的に経済発展を遂げているGS諸国のフード&アグリテック分野におけるスタートアップ市場の概況と代表するスタートアップをいくつか紹介したい。

1)グローバルサウスのフード&アグリテック市場

世界のスタートアップへの投資額は、2010年代半ばから2021年にかけて、各国の金融緩和政策による余剰資金の増加と、2015年の「持続可能な開発目標」(SDGs)の採択を背景に、増加の一途を辿ってきた。しかし、その投資額は、2021年をピークに、2022年、2023年と大幅な減少に転じ、2024年は復調の兆しは見せたものの3年連続で減少している。なお、グローバルなフード&アグリテック業界と日本企業のビジネス機会に関する詳しい考察は、NOMURA フード&アグリビジネス・レビュー Vol.2[8]をご参照いただきたい。

一方、2024年のGS諸国におけるフード&アグリテック分野のスタートアップへの投資額は、増加に転じている(図表3-1)。米国・AgFunder[9]によると、2024年の世界のフード&アグリテック市場の資金調達額は、160億米ドルと、前年同期比で4%減少する中、GS諸国の同分野への投資額は、37億米ドルと、2023年と比較して63%増加している。長期的にみても、2015年当時10%強であったGSの全世界投資に対する割合は2024年度には23%と上昇しており、GS諸国のシェアが拡大している。また、欧州や中国での市場減退を背景に、2024年の世界全体での投資件数は、前年同月比で22%減となっている中、GS諸国の投資件数は前年同期比で8.4%の減少にとどまっている。

図表3-1  フード&アグリテック市場での全世界及びグローバルサウスへの投資状況

(出所)AgFunder「Developing Markets AgriFoodTech Investment Report 2025」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成

2)事例紹介

ここからは、日本の公的機関や民間企業との間で接点がある、または今後協業が考えられるGS発のフード&アグリテック系のスタートアップを5社紹介する。これらの企業は、GS諸国の課題を解決するソリューションをそれぞれ有する事例であり、日本企業が「共創」を考えるうえで有益なスタートアップと考えられる。

1)自動化された農産物の生産システム

Agrilogiq社(アグリロジック社)[10]は、2017年に南アフリカ共和国にて設立されたアグリテック企業であり、農業バリューチェーン全体の最適化を目指し、アグリテック分野における先進的なソフトウェアとハードウェアの開発を通じて、生産者と栽培施設を結びつけるプラットフォーム事業を展開している。具体的には、リアルタイムで取得したデータをクラウドベース上でのソフトウェアプラットフォームと連携させ、自動化されたシステムにより、各地域の気候に最適化した温室での農産物栽培に関する管理システムを提供している。同社は、国際協力機構(JICA)が、2024年に南アフリカ共和国で実施したNext Innovation with Japan (NINJA) [11]アクセラレーター・オープンイノベーションプログラムで採用された、ICTソリューションのアフリカの主要なインテグレーターである。日本電気株式会社(NEC)のアフリカ・サブサハラにおけるグループ会社であるNEC XON社とマッチングし、3か月にわたる実証実験(PoC)を経て、2025年に、NEC XON社の公式ベンダーとして正式に採用されている[12]。これから、NECのAI・データ分析技術や国際的なネットワークを活用することで、更なる国際的な展開が期待されている。

図表3-2 各気候に最適化した温室栽培システム

(出所)Getty Images

2)中間流通を介さないマーケットプレイス

index01Zowasel社(ゾワセル社)[13]は、2017年に設立されたナイジェリアのアグリテック系スタートアップであり、小規模農家の課題解決に特化している。ナイジェリアの農業市場において農家が直面する課題として、マーケットアクセスがある。創業者自身も小規模農家出身であり、その経験を活かして農家と企業を結ぶプラットフォームを立ち上げた。

Zowasel社のビジネスモデルは、農家(売り手)と企業(買い手)を直接結ぶマーケットプレイスを中心に展開しており、農家は中間業者を介さずに直接取引を行うことができる。同社によると、このアプローチにより、農家の平均収益をおよそ3割向上させることに成功している。その他にも、主な事業として、作物栽培に関する栽培指導や農機器のレンタル、クレジット・スコアリングサービスが含まれている。同社は、200万人以上の小規模農家と約5,000社の企業とのネットワークを有しており、主なパートナーにはシンガポールのOlam社、南アフリカのPromasidor社、アイルランドのGuinness社などが含まれている。また、Zowaselはナイジェリア三菱商事やJICAとの連携を通じても、農機導入や金融アクセスの向上を図っており、同社のビジネスモデルは、ナイジェリアの農家の「マインド変革」を通じて、農業の効率化と持続可能性の向上に貢献し、同国の農業関連の状況を根本から変える可能性を秘めている[14]

図表3-3 収穫した農産物の情報を入力する農家

(出所)Getty Images

 

3)農業労働者の貧困撲滅とフェアトレード

Endiro Coffee社[15]は、2011年に子どもたちの未来を奪う児童労働を終結させるというビジョンのもと、ウガンダの女性起業家によって設立されたウガンダ最大のコーヒー企業である。同社は、単純に利益だけを考えずに、貧困削減やフェアトレードを重視し、地元農家から調達した高品質でオリジナルなコーヒーを特徴としている。現在は、ウガンダ・ケニア・米国で17のコーヒーショップを運営している。2021年にウガンダで実施されたNINJA アクセラレータープログラムに参加し、日系企業との事業連携にも成功し、日本での販売経験も持つ。同社は現在、ウガンダだけではなく、他のアフリカ諸国のコーヒー農家と世界中のバイヤーを直接つなぐコーヒーEコマースプラットフォームの運営も計画している。

図表3-4 ウガンダ産のコーヒー豆

(出所)Getty Images

 

4)多面的な収益機会の提供

AGRO AGAPE社(アグロアガぺ社)[16]は、2018年に設立されたカンボジア発のスタートアップである。

「Farm to Table, Table to Farm(農場から食卓へ、食卓から農場へ)」をモットーに、カンボジアのコーヒー農家への質向上のための研修や機器の提供、質の高い豆の買い取りや卸売販売、カフェでの提供、そしてコーヒー豆の残渣からできるバイオ炭の肥料製造や販売等を行っている。カンボジアでは、多くの農産物を輸入に頼っており、コーヒーに至っては9割が輸入品となっている[17]。カンボジアでは、コーヒー豆が大量にベトナムに輸出され、ベトナム企業がコーヒー粉末を作り、ベトナム産コーヒーとして、カンボジアに再度輸出する不均衡な構造となっている。創業者で女性起業家のSreypouv Tan氏は、彼女の叔父の経営するコーヒー農園において、市場がないためにコーヒー豆が収穫されず、破棄されている現実を目の当たりにし、農家を支援するために本ビジネスを立ち上げた。また、Sreypouv Tan氏は、起業家として様々な障壁に直面しながらも、他の女性零細企業家を支援することにも情熱を注いでおり、女性起業家への支援プログラムにも参加している。同社は、2024年に開催された特定非営利活動法人ARUN Seed主催のCSI チャレンジ5に参加し、デロイトトーマツ賞金賞を受賞している[18]

図表3-5 コーヒー農園

(出所)Getty Images

 

5)バイオスティミュラントによる農業生産性の向上

M4Life社(“Microbes For Life”(エムフォーライフ社)[19]は、2023年にアルゼンチンで設立されたバイオテクノロジーのスタートアップであり、微生物を活用した持続可能な農業改善を目指している。微生物の専門家と投資銀行出身者が共同創業しており、両者の専門性を活かして、農業の生産性向上に寄与する独自の技術を開発している。同社の主な特徴は、ストレス環境下で育つ植物の根から隔離した微生物を選択し、バイオ・トレーニング技術を用いて、気候変動や干ばつなどの非生物的ストレスに対する耐性を高めることにある。この独自の技術により、従来のバイオスティミュラントの効果を飛躍的に向上させることに成功しており、農業の生産性向上に寄与している。

図表3-6 土壌から微生物を単離する様子

(出所)Getty Images

同社は、すでに世界各地で圃場試験を実施しており、多くの実験で、当初の期待を超える高い成果を出しており、グローバル企業とのパートナーシップにも積極的で、大手企業と共同で新たなビジネスチャンスを模索し、付加価値を高めるソリューションを展開している。シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタル投資家であるTim Draper氏が立ち上げた起業家育成プログラムで優秀賞を受賞したことで、国際的な知名度も上がり、将来の成長が大いに期待されている。

おわりに

GS諸国は、豊富な資源、起業家精神が旺盛な国民性そして革新的技術の導入を背景に、リープフロッグ的に経済発展を遂げている。一方で、気候変動や地球温暖化の影響や地政学的なリスクを背景に、GS諸国はまだまだ社会課題が山積している。混沌とする現在の世界情勢において、日本が引き続き経済発展を遂げていくためには自社、自国の成長のみを考えるのではなく、GS諸国の企業をパートナーとして「共創」していくことが重要だ。

後編では、フード&アグリ分野において、日本の強みや個性を活かし、実際にGS諸国をパートナーとして捉え、海外展開を行っている日本企業を紹介するとともに、これら活動を後押しする日本政府や政府関係機関、そして各自治体の支援メニューについて紹介、考察したい。

   


[注釈]

[1] フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国及び欧州連合(EU)が参加する枠組み。

[2] 「食料安全保障」FAOHP (https://www.fao.org/fileadmin/templates/faoitaly/documents/pdf/pdf_Food_Security_Cocept_Note.pdf)

[3] Climate Watch HP (https://www.climatewatchdata.org/

[4] 「IPCC 第 6 次評価報告書 第 3 作業部会報告書の概要」環境省HP (https://www.env.go.jp/content/000155004.pdf)

[5] 「2024年は産業革命前の平均気温を1.5℃以上上回った」コペルニクス気候変動サービスHP (https://climate.copernicus.eu/2024-track-be-first-year-exceed-15oc-above-pre-industrial-average)

[6] 環境に配慮したかの様に見せかける、 実態が伴わない行動や表現

[7] 「JICAグローバル・アジェンダ(課題別事業戦略) 5. 農業・農村開発(持続可能な食料システム)」JICAHP (https://www.jica.go.jp/Resource/activities/issues/agricul/ku57pq00002cubgq-att/agricul_text.pdf)

[8] 「フード&アグリテック・スタートアップのグローバル事業環境と今後の展開シナリオ - 国内大手企業の新規グローバル参入機会 -」野村證券HP (https://www.nomuraholdings.com/jp/sustainability/sustainable/fabc/data/20240611_2.pdf)

[9] 「Developing Markets AgriFoodTech Investment Report 2025」 AgFunder HP (https://agfunder.com/research/agfunder-global-agrifoodtech-investment-report-2025/)

[10] 会社HP (https://www.agrilogiq.com/)

[11] JICAによる開発途上国のビジネス・イノベーション創出に向けたスタートアップエコシステム構築支援プログラム

[12]「南アフリカ初のNINJAアクセラレーターの成果として、スタートアップ2社がNEC XONの公式ベンダーに」JICA HP (https://www.jica.go.jp/activities/issues/private_sec/project_ninja/news/2024/20250317.html)

[13] 会社HP (https://www.zowasel.com/)

[14] 「デジタル農協化」するアフリカ×アグリテック・スタートアップ」新潮社Foresight HP (https://www.fsight.jp/articles/-/49333)

[15] 会社HP (https://www.endirocoffee.com/about-us-1)

[16] 会社HP (https://agro-agapecambodia.com/)

[17] 「【女性起業家の挑戦】起業を通じた社会課題解決 第二回 – カンボジア産コーヒーにかける思い」笹川平和財団HP (https://www.spf.org/gender/women_entrepreneurs/20231124.html)

[18] 「CSIチャレンジ5最優秀企業は、侵略的外来植物のランタナから象のアートを製作するインドのスタートアップに決定」ARUN HP (https://www.arunseed.jp/info/20240517.html)

[19] 会社HP (https://www.microbesforlife.com/)

  

  

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