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FRBの金融政策決定プロセスと任期

米国ではトランプ大統領がパウエルFRB議長の政策判断に対して批判を繰り返す異例の事態が続いています。特に足元では、パウエル議長の後任人事を巡ってFRBの独立性が脅かされることに対する警戒感や、金融政策への影響に対する関心が高まっています。

FRBの政策判断に対して政治がどこまで介入し得るかを考える上では、金融政策の決定プロセスを知る必要があります。FRBの政策決定会合であるFOMCの参加者は19名、このうち議長と2名の副議長を含む7名の理事とニューヨーク連銀総裁に加え、輪番制で4名の地区連銀総裁が投票権を有しており、多数決によって政策が議決されます。議長の影響力が最も大きいことは論を待ちませんが、必ずしも全会一致で決定されるわけではありません。  

理事は大統領が指名し、上院の承認を経て任命され、理事の中から議長、副議長が選出されます。政治の影響力を低減させるため理事の任期は14年と長く、正副議長の任期は4年になります。

FRBのボードメンバー

(注1)CEA:大統領経済諮問委員会、(注2)網掛けは第1次、第2次トランプ政権下で任命されたことを示している。
(出所)FRB資料より野村證券投資情報部作成

政治の介入余地を巡る攻防

パウエル氏の任期は議長としては26年5月までですが、理事としては28年1月までです。近年は議長としての任期満了後に、理事を辞任することが慣例をなっていますが、パウエル氏は進退を明らかにしていません。

また、25年8月8日にクグラー理事が辞任したことを受け、トランプ大統領は後任にミランCEA委員長を指名しましたが、任期は26年1月までとしたことから、ミラン氏を次期FRB議長と考えている訳ではないようです。

各種報道によると、次期FRB議長候補の選定はベッセント財務長官を中心に行われており、8月13日時点では11名程度がリストアップされている模様です。この中にはトランプ政権下で理事に任命され、直近(25年7月)のFOMCで利下げを主張した2名の理事も含まれています。現時点では誰が次期FRB議長に指名されるかは定かではありませんが、ミラン氏の後任を含めても、トランプ大統領の意向を政策判断に反映させる可能性のある理事は3名、仮にパウエル氏が理事を辞任すれば4名になる計算です。

次期FRB議長候補者

(注)NEC:国家経済会議。2025年8月13日時点。全てを網羅している訳ではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

FRBは2025年9月会合から利下げを再開すると予想

野村證券では、トランプ大統領からの利下げ圧力とは関係なく、FRBは2025年9月FOMCから利下げを再開すると予想しています。25年7月FOMC直後に発表された7月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比7.3万人増と市場予想(同+10.5万人増)を下回っただけではなく、過去2ヶ月分が合わせて同25.8万人下方修正されました。結果、3ヶ月移動平均で見た雇用増加ペースは同+3.5万人増と、景気に中立的と見られる同+10万人増を大幅に下回りました。  

関税の引き上げは、米国経済に対して「景気減速+インフレ押上げ」圧力として作用することが想定されます。ここまで米国経済は堅調な労働需要を背景に底堅く推移してきたことから、パウエルFRB議長はインフレ再燃を警戒し、利下げに慎重な姿勢を続けてきました。7月雇用統計は労働需要の大幅な減速を示唆、その後発表された7月消費者物価指数(CPI)が関税コストを価格転嫁する動きは未だ限定的であることを示したことから、市場では早期利下げ観測が高まり、先物金利では9月FOMCでの0.25%ポイント(pt)の利下げを一時完全に織り込んでいました。このような状況を踏まえ野村證券では、FRBは25年9月と12月、26年3月に0.25%ptの利下げを実施し、政策金利の誘導目標を3.50-3.75%へ引き下げる見通しへと変更しました(従来は25年12月から3会合連続での利下げを予想)。

FRB人事はFRBのハト派(利下げに積極的)化につながる公算大

FRBが独自の判断に基づいて利下げ姿勢へと転換することが予想されることから、金融政策判断に対する政治の介入余地は更に低下すると見受けられます。ただし、次期FRB議長がパウエル現議長よりも利下げに積極的な人物となり、残り6名の理事のうち最大で3名が同様の政策姿勢を有するならば、金融政策判断を巡るFRBのバランスは現在よりもハト派的(利下げに積極的)な方向に傾くことが想定されます。また、26年に投票権を有する地区連銀総裁は、今年投票権を有する地区連銀総裁に比べ利下げに対してより柔軟な姿勢を示しています。このことから、政策金利の着地点は我々の見通し以上に低くなる可能性は否定できません。

FRB高官の投票権と最近の発言

(注)網掛けはFRBのボードメンバー。ただし、クグラー理事は25年8月8日に辞任。※はトランプ政権下で任命されたことを示す。発言の内容は野村證券投資情報部による抜粋。発言の後ろのカッコ内は発言があった(月/日)。投票権はFOMCにおける政策決定の投票権。全てを網羅している訳ではない。
(出所)FRB、各種報道資料より野村證券投資情報部作成

野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
尾畑 秀一

1997年に野村総合研究所入社、2004年に野村證券転籍。入社後、一貫してエコノミストとして日本、米国、欧州のマクロ経済や国際資本フローの調査・分析に従事、6年間にわたり為替市場分析にも携わった。これらの経験を活かし、国内外の景気動向や政策分析、国際資本フローを踏まえ、グローバルな投資戦略に関する情報を発信している。

野村證券投資情報部 ストラテジスト
引網 喬子

2023年10月より投資情報部に在籍。米国株の調査業務を経験後、各国経済・為替に関する投資情報の発信を担当。個人投資家を対象に、わかりやすい情報提供を心掛ける。

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