
(注)画像はイメージです。
関税の影響一巡後は日米とも史上最高益更新へ
日米の主要株価指数は、史上最高値の更新を続けています。トランプ政権は、今後も様々な品目を対象に、関税を発動する可能性があります。ただし、我々は、リスクの所在が明確化し、主要国・地域の経済や企業活動などへの悪影響は克服可能/限定的となれば、企業業績の復調や拡大と共に株式市場への信頼感は回復してゆくとみており、この見方は現在も不変です。関税の影響が一巡した後は、日米ともに史上最高益の更新が続くとみます。
FRBは利下げを再開
ウクライナや中東の地政学リスクにおける商品市況への悪影響は限定的で、エネルギー価格は落ち着いています。米国景気は底堅い状況です。中国など一部の国を除き、米国の追加関税は実行されました。自国産業の保護と拡大を目的に、重要品目に対する個別の関税が今後発表される可能性があります。このような環境下にもかかわらず、AIインフラ拡充のための関連品目の輸入は増えているようです。雇用環境の緩和が進む一方、消費は底堅く推移しています。FRBは、雇用の下振れリスクに対応するため、2024年12月以来となる利下げに踏み切りました。金融市場は、2026年末に政策金利が3%程度に低下することを織り込んでいるようです。
テクノロジー企業を中心に史上最高益更新が続く
米国企業業績は、テクノロジーセクターを中心に堅調です。関税による業績低下懸念に対し、企業決算毎の実績では上振れが続きます。AI関連のインフラ投資は急拡大していますが、直接の好影響を公表する企業を除き、企業業績への織り込みは限定的です。主要企業の業績は、テクノロジー企業を中心に史上最高益の更新が続くとみられます。
フランスの政治は混迷
ユーロ圏では、フランスで首相交代が相次ぎ、政治が混迷しています。ECBが政策金利据え置き局面に入る中、フランスの10年国債利回りはイタリアの同利回りを初めて上回りました。中国は、不動産市況を中心に国内経済が弱含んでおり、政府の追加経済対策が期待されています。米国との関税交渉は、期限となる11月10日前に閣僚級協議が開催される予定です。
日本の企業業績は2026年度に増益転換と史上最高益更新へ
日本の輸出数量は米国向けで大きく減少しており、米国関税政策の影響とみられます。ただし、日本に対する関税率は、他の国・地域と比べて有利な水準です。企業の在庫水準は抑制的で、リスクへの耐性を確保しているようです。インフレ率は2%を上回る水準が続き、日本銀行は経済や物価の改善に応じて利上げを行う姿勢を示しており、年内の利上げの可能性も市場では意識されています。与野党の財政拡張的な政策議論もあり、超長期国債を中心に利回りが上昇しています。銀行の貸出約定平均金利が上昇しており、銀行収益の追い風です。一方、日米金利差の縮小に対して、米ドル円相場は円高・米ドル安に進んでいません。底堅い米国景気や株高などが背景にあるとみられます。2025年度の企業業績は、米国の関税政策という異例の状況から減益が予想されていますが、足元の企業業績の方向感には底打ちの兆しがみられ、2026年度は増益転換と史上最高益の更新が見込まれています。野村證券は2025年末の日経平均株価の予想レンジ上限を48,000円とみます。
投資戦略については、トランプ政権の関税政策や日米政治情勢の不透明さから、株式市場のボラティリティー(変動率)が高まる場面はあるとみます。しかし、関税の影響を受けにくく、成長が続くテクノロジーやサービスなどの業種を基軸とする見方は変えません。米国関税政策を悲観視するよりも、成長が続く分野を見直す局面にあるとみます。
※野村證券投資情報部「Nomura 21 Global 10月号」(発行日:2025年9月22日)「投資戦略の概要」より

野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
小髙 貴久
1999年野村総合研究所入社、2004年に野村證券転籍。日本の経済・財政・金融動向、内外資本フローなどの経済・為替に関する調査を経て、2009年より投資情報部で各国経済や為替、金利などをオール・ラウンドに調査。現在は日本株に軸足を置いた分析を行う。2013年よりNomura21Global編集長を務める。